鹿島美術研究 年報第3号
76/258

23.ピサネルロとその周辺の画家に関する研究450点余所蔵されている。B.Degenhart及びM.Fossi Todorowらによる,それらの一つの正確な基準をもたらすことになるであろう。研究者:東京大学文学部助手小佐野重利研究目的:ルーヴルの素描室をはじめ欧米各地に,ピサネルロと何らかの関連のある素描が計素描の目録編纂の仕事はピサネルロの「周辺の画家」たちの存在を抜きにしては,この画家の素描を正しく評価できないことを示してくれた。ところが,ピサネルロの絵画作品に関しては先述のHillとArslanがヴェローナのサン・タナスタージア聖堂<聖ゲオルギウスと姫君>の壁画にピサネルロ以外の画家の「手」の介在を示唆して以後,ピサネルロの絵画研究にそうした「周辺の画家」の介入の問題が考慮されることは全くなかった。従って実行する価値がある。近年マントヴァ公爵宮の旧「ピサネルロの間」から再び明るみにもたらされた画とシノピアに申請者は,ピサネルロばかりでなく,彼の共作者もしくは助手の「手」を確認した。このようにピサネルロを取り巻いていた助手,弟子,共作者,ひいては追随者の存在を無視しては,今後ピサネルロ研究は望めないといって過言ではない。しかしこの「手」の識別は困難を極める作業であり,現地での作品の綿密な調査を必要とする。加えてその困難さの大半は,ピサネルロ自身の修業時代の解明及び若描き作品の同定が未だ充分になされていないためである。そこで今回はピサネルロの修業期に重点を置いて現地での作品調査を行う。こうした調査を促した要因にピサネルロの修業期に深い関係のあるジュンティーレ・ダ・ファブリアーノ,ミケリーノ,ダ・ベゾッシオ,ステーファノ・ダ・ヴェローノに関する最新の研究成果があることを指摘しておきたい。いずれにせよ,こうした調査はピサネルロとその周辺の画家の問題に限られず,1430年代までのヴェネト絵画史に修正を加えることになると信ずる。同時期のヴェローナ絵画史について言えば1926年のE.Sandberg V arliの研究書以後注目すべき研究のないのが実状であるため,この種の調査は急務である。-60

元のページ  ../index.html#76

このブックを見る