鹿島美術研究 年報第3号
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36.第4次元の探求ー現代美術におけるreadtimeの一断面一研究者:大阪大学文学研究課後期課程富井玲子研究目的:時間,あるいは運動の美術への導入は,20世紀初頭,未来派により提言されて以来,種々の形で試みられてきた。デュシャンやクフ°力を含め未来派が静止画面(又は彫刻)という伝統的メディアの中で運動表現の問題を解決しようとしたのに対して,20年代には,構成主義者(ガポ,モホリ・ナギ,ロシア・アヴァン・ギャルド)によって実際の運動を作品の中に割り込む,あるいは運動そのものを提示するという方法がとられた。彼らの試みはカルダーのモビールを経て,戦後彫刻に継承されて,1960年代には,キネティック・アートという新しい美術の一分野が形成された。同時に戦後美術では,ハプニング,ビデオアート,アースワーク等でも,運動とそして時間の問題はった形で検討されている。研究者の間では,最近,運動の問題を時間の問題として捉え直そうという気運か見出せる。例えば1984年ブラッセルのPalisdes Beaux Arts の展覧会「時間:第四次元についての諸相」の第3部では近・現代美術における時間の問題が概観されている。ところが,キネティック・アートについては,若干の言及があるのみで殆ど等閑視されている。理由の一つとして,キネティック・アートの研究者,批評家達がもっぱら運動のみに関心を払い,それを成立させる時間を吟味の対象にしていなかったことが挙げられる。それに関連するが,人間が参与するハプニングや自然現象を連動させたアースワーク,literalな側面を重視するコンセプチュアル・アートに比較してキネティック・アートの時間がよりNon-representationaiであること,そしてその結果として時間構造分析の方法論が研究されてこなかったこともその原因であろう。運動が導入されているから,だから時間が“表現”又は“主題化”されているというような単純な図式ではなく,より個々の作品に即した緻密な議論が必要である。本研究の目的はこのような議論を可能にする一つの方法論を提出することにある。-69 -

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