鹿島美術研究 年報第3号
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にも共通に看取され,作品ごとの微妙な表現の変化は各時期の嗜好の変化を反映している。というより,それらによってより鮮明に明確にそういった変化を把え,他のジャンルや社会史的側面から見た時代の諸相展開を補強することが可能なのである。現存するそれらの貴重な作品を純枠に造型作品として分析し,その展開の跡を見極わめることには,従来の文献にかたよりがちな中国絵画研究からは多少心もとない方法のように見えるかもしれないが,美術史の方法としては至って正統的なものと言え,こういう作品(文献資料が欠如している)こそ,そのような方法でとり組まねばならないし,また一般の人から中国絵画を遠ざけている一種の難解さは,こういう作品の研究から乗り越えられ解消してゆくものと思われる。世界の他の地域の美術の展開と同様の概念,共通の言葉で中国絵画史が語られることは,多くの人々の望むところと思われるが,その為にも,このような分野の研究は何らかの糸口になると考えられる。72 -

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