(3) 近代禅画の基礎的研究一白隠・遂翁・東嶺を中心として一研究者:富岡美術館学芸員浅井京子調査研究の目的:近代禅画__ -Zen Paintingの訳語である`禅画”をここでは近世禅師の墨画遺品(遺墨)に限定して使用_に対する関心は,近年,国内はもとより欧米においてもかなりの高揚がみられ,殊に欧米では神秘的な東洋の`禅”思想を理解するための一つの確かな手掛りとして,国内でのそれ以上に関心が寄せられていることも事実である。戦後の禅画研究はクルト・ブラッシュの著作(『禅画』1962,『禅と日本文化』1972)によって拓かれたとみなされるが,一般には茶道との関連でとりあげられることか多く,それを絵画史の立場から本格的にとりあげた研究は意外に少ない。この研究では近世禅宗史の上でも特に重要な人物の一人と目される白隠を中心に,弟子の遂翁並びに東嶺の遺墨を当面の対象とし,可能な限りの作品リストを作成するともに基礎的調査及び資料の収集を行い,最終的に彼らの近世絵画史上における正当な位置づけを試みようとするものである。1.白隠の作品について現在知られている白隠の墨蹟の初例は,正徳6年(1716• 32オ)の年記をもつ木札に書かれた『濃陽富士山記』(No.587),及びその草稿(No.670)である。以後,彼は明和5年(1768)に84オで没するまでに,その宗教心の具体的な発露として,あるいは接化の手段として,おそらく千点を越える作品を残したと思われる。そのうち,昭和62年4月現在までに私が実査できたものは合計687点である。(附表1)の資料は文中記述に関係のある番号のみにしました。白隠のまとまった紹介としては,これまで竹内尚次『白隠』(1964年,紹介件数502点),『墨美』77■79,90号合本(1972年,388点紹介)が挙げられるが,上記実査作品はそれらの一部を含み(前者の111点,後者の約100点_ほぼ半数が重複),また未発表のものも少なくない。もちろんなかにはやや疑問のある作品も幾つかないわけではないが,今後全体を網羅する中で,それらを峻別・除外して行くつもりである。先の白隠の全体作品数についての感触は,こうした現時点での調査経過に照らしてのものといえる。書風の変遷を知ることは,製作年代決定の重要な手掛りの一つになると考えられる。687点中271点が書の作品であるが,禅画の場合自賛のある作品が多く,年代による-83 -
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