鹿島美術研究 年報第4号
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あかし般的な図様である正面向きの老人が梅枝をささげて立つ姿で描かれるが,他の多くは「南無大自在天満天神」の文字を使って天神の姿を表す。ここでも,鳥居と樹木のみで天神を象徴する‘天神留守模様、が存在する。⑧悟りの証くNo.293■302〉悟りの表現として円相,印證として与えられた龍杖や柱杖更には払子と柱杖を組み合わせたものをここに一括した。特に龍杖には与えた人物名,年記が記されていることが多いため,白隠の行状記録として重要な意味をもち,また年代的にも後出の⑪一字関の製作された比較的晩年に近い時期に集中しているのも特徴的である。⑨人物くNo.317■334〉関羽,廓巨,人丸,熊谷蓮生坊,芭蕉など実在の人物から想を得でいるものをはじめ,お福さん,曲乗り,猿曳,油売り,鰻をつかまえようとする男など様々な人間文様をとらえ,人間の有りのままの姿を物語っている。このうち人丸は歌神柿本人麻呂のことで,ヒトマロ→ヒトマル→火トマルと転意させ,火よけの護符の意をもたせた。また天神と同様,「ほのぼのとあかしの浦の朝露に云々」の和歌による文字絵で人丸像を描いている。(No.307■315)。⑩その他〈No.335■416〉山水・動植物(竹・蘭・菊・蟻・かまきり・猿他)・道具類(審・鉄棒他)などを題材としたもの。このグループでは富士山に鷹の羽と茄子を描きそえ初夢と題すものや審あるいは蟻と臼を描き偽悟りを痛烈に批判したもの,人生訓をこめたものなど様々な寓意をもつものが多いのも注目される。⑪一字関くNo.417■480〉一字を大書し,悟りを記したものであるが,親・孝・楽のように儒教的教えを書いたものもここにまとめた。また「常念」は常字の一変形としてあつかった。白隠70■80代にかけての晩年の作品が多い。⑬法語くNo.514■589〉禅の悟りを説く文章で,偽頌が韻文体であったのに対し,散文で書かれたもの。養気説・円頓章・大燈国師遺戒などもここに含めた。主として白隠が本格的な布教活動に入った60代後半以降にまとまってみられる。なお正徳5年の過程を知る上で貴重な資料である。⑭名号・神号

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