鹿島美術研究 年報第4号
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(4) フィンセント・ファン・ゴッホの作品の資料的研究研究者:国立西洋美術館学芸課主任研究官有川治男調査研究の目的:ゴッホの作品が彼の書簡の中でどのように言及されているかという問題は,ゴッホ研究のきわめて重要な一分野であり,ド・ラ・ファーユの『ゴッホ総カタログ』(1970),フルスケルの『ゴッホによるゴッホ』(1973)などは,その分野での研究成果を示している。しかしながら,それらの研究は必ずしも完全なものではなく,例えば有名な《ゴッホの寝室》についてさえ,その解釈に関して極めて重要な言及箇所が,これまで指摘されていなかったのである。この例の場合,ゴッホがその問題の箇所において,この作品の題名をはっきりと挙げていないため,これまでの研究者の目から逃れていたのであるが,一般に書簡の中での作品の言及は,今日我々が呼んでいるような題とはなる名で,しかも幾通りもの違う名称で行われていることも多い。この研究では,ゴッホの書簡に出てくる彼の作品に関する言及をすべて収録,相互に比較し,作品自体と対照する作業を,近年,文科系の研究者にも使用しやすくなってきたコンピューターの助けを借りて,できる限り完璧に行う。今後のゴッホ研究にとっと不可欠の基礎研究になると思われるが,ゴッホの書簡の日付に関する再検討,現行の書簡集の不備の補完などの作業を伴うものであり,1988年度までの三年間にわたる研究として計している。研究報初年度(昭和60年度)における研究は,主に次の4点に主眼がおかれた。3)コンピューター処理の技術的検討以下,各項ごとに研究の進展状況の概略を記す。主要な文献はすでにかなりのものが参照できる状態にあったが,この一年間に新たに出版されたものも含め,研究に有益な文献が多数入手された。とりわけ,ロナルド・ビックヴァンス氏による『サン・レミとオーヴェールのゴッホ』は,氏が以前に発表した『アルルのゴッホ』とともにこの研究にとって非常に貴重な文献となった。1)文献資料の収集2)研究対象の具体的検討4)基本的モデルの構築1)文献資料の収集-92 -

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