(7) 中国唐代の花葉文と日本上代彫刻におけるその受容と展開研究者:慶應義塾大学文学部研究科博士課程在学水本咲調査研究の目的:中国の花葉文は,近来の発掘により年代の明確な資料はかなり増加し,編年的にその発展過程を辿ることができるようになった。一方,中国と日本との影縛関係をより緻密に究明することも課題となる。例えば上代彫刻の制作年代を推定する為には,従来は文献史料と彫刻様式の両面から詳細な分析が加えられてきたものの,これに付された装飾文様(主として花葉文)に関してはあまり注目されることがなかった。上代彫刻の様式研究では中国からの影需が重要な問題点として認識されているが,中央の事例に関しては,中日双方に遺品が比較的豊富で綿密な比較検討が可能であり,殊に花葉文のもつ価値は極めて高いといえよう。すなわち,日中間の対応関係を具体的に探ることによって,中国様式の受容の様相が明らかにされ,個々の制作年代の設定にとっても有力な判断材料が提供されるであろう。今回は中国の(主として随,唐の)の新資料から花葉文の展開とその特質を考えるのが主目的である。研究報告:と遺跡計7箇所を廻り,在銘の石刻遺品を中心に集中的に写真撮影と調査を行った。それらの現状の概要と中でも特に注目される遺品(*印)に関するやや詳しい報告と知見を以下に述べる。(1) 西安碑林ー映西省博物館内(西安市内)対象を随・唐のものに絞り,その他の時代のものについてはメモ程度の粗査にとどめた。すでに『西安碑林』などで図版が刊行され,その存在が知られるものは再確認してデータを補完した。刊行図版は総て拓本であるので,実際の線刻と石の材質感をも伝えるために写真撮影を行った。*大唐三蔵聖教序碑数基ある三蔵聖教序碑のうち龍朔3年(663)銘のもののみ碑林内に収められている。碑文は堵遂良の楷書で有名であるが,未紹介のその他の箇所には注目すべき点が少なくない。大きめの方形台座の側面には,十二神将像が各面3謳ずつ浮き彫りで配されている。これらは丸彫りに近い丁寧な彫りで大きさもあり彫刻としての充実した体裁を備えている。唐草の装飾文様は,台座上面の面取りした斜側面帯には薄肉彫りで,本体の左右側面帯には線刻でそれぞれ現されている。より鮮1986年11月16日〜27日の間,中国映西省西安市に滞在し,市中及び近郊県の博物館-107-
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