いずれ小規模な展観によって公開する予定であり,近〈開館を予定している岡山県立美術館における郷土作家展としての鹿子木孟郎展に調査の成果は反映されるべく協力を考えている。(9) 近世絵入版本の研究研究者:東京国立博物館研究員調査研究の目的:従来美術史の分野では見過されてきた版本挿絵,特に合巻を中心とする草双紙の挿絵を中心に,その挿絵本来の真価を追求しようとした。上記の研究の柱としては,連続図様,演劇(歌舞伎)趣味の導入等を設定し,これまで浮世絵師の作風変化の編年的資料,あるいは伝記研究の材料等の第二次的扱いを極力排するよう心がけた。調査の対象コレクションとしては国立国会図書館,中央図書館,加賀文庫,名市蓬左文庫,名古屋市鶴舞中央図書館等の公立図書館のものを主とし,これに個人所蔵のものを機会と必要に応じて加えた。研究報告'.近世の絵入版本はこれまで美術史の対象としては不当なほど無視されてきた感がある。殊に,黄表紙,合巻等の草双紙,あるいは読本などの比較的大衆向けの文学の挿絵は,そのほとんどを当時一流の浮世絵師達が描いているにもかかわらず,ほとんど看過されてきたと言ってよかろう。最近になりようやく,葛飾北斎の読本挿絵が大きくクローズアップされ,また一部の研究者によって地道に草双紙の挿絵が研究されつつはあるが,まだまだ,美術史の中の浮世絵史という比較的狭い研究の範囲の中においてさえ,それらの挿絵は副次的資料として扱われることがほとんどであり,挿絵自体の価値をうんぬんされることは少ないといえる。この研究では,主として江戸時代後期の絵入版本,殊に黄表紙,合巻といった美術史方面(文学史の面でもまたそうであるらしいが)からの研究の立ち遅れている草双紙挿絵をその調査対象として,時間的また予算的な余裕に応じて,読本などの草双紙より一段知的教養の高い読者層を対象とした文学の挿絵や,あるいはまた,名古屋市立蓬左文庫所蔵の旧尾崎久称コレクションの様に,比較的点数の限られてたコレクションにあっては,絵手本や演劇書なども含めて,なるべく広い範囲を調査することを大久保純-112 -
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