品,スキタイ遺物などを見ることができた。しかし今回の調査で更に力を入れたのは東アジア方面の資料収集であり,ケルン,ベルリンのダーレム,ストックホルムの各東アジア美術館,英国の大英博物館において,主としてオルドス青銅器を中心に調査を行い,必要な資料は実測図を描き,写真を撮影し,またスライドを撮影した。その中で主なものを挙げると以下の如くである。ダーレムの東アジア美術館所蔵の鏡。これは径10cmで,背面の鉦の周りに大きな虎が躯を円形に丸めている。虎の躯の中には小さな虎が6頭,同じ姿勢で表され,また1頭の小さな虎が表されている。この文様は全て細い隆起線で表されている。この躯を丸めた虎のモチーフは,スキト・シベリヤ動物意匠の代表的なものであるが,細隆起線を用いた動物の表現には他にも幾つか例がある。一つは中国河南省上村嶺琥国墓地出土の鏡であり,また内蒙古自治区南山根101号石榔墓出土品にも見ることができる。他にオルドス青銅器の収集品中にも例がある。更にアルタイ出土の初期スキタイ系文化の鏡に表されたものもある。上村嶺琥国墓地の年代は,琥国が前655年に滅ぼされたため,前655年以前,春秋時代前期とされているが,これは,前7世紀後半に始まった黒海浴岸のスキタイ文化よりも早い。ダーレムの虎文様の鏡は,東方の動物意匠の早い例と考えることができ,スキト・シベリヤ動物意匠の東と西の年代関係を考える上に重要な資料である。同じくダーレムの飾板。興味深いものが何枚もあったが,特に面白いのは躯にトルコ石を嵌め込んで装飾した動物形飾板であった。その全体の形は岩壁画の動物の描写を連想させ,年代も比較的早いことを感じさせるが,それに象嵌の技法が用いられているのは興味深い。ピョートル大帝のシベリヤ・コレクションなどには,貴石を象嵌したものが多く見られるが,ューラシア草原地帯における象嵌技法の起源・伝播を察する上にも,これは一つの資料となるであろう。しかしまだ関連づけられる資料がなく,今後の資料の出現を待つほかない。ダーレムの飾板には,二人の人物が角力をとっている場面を表したものがある。これは映西省西安の客省荘で出土した匈奴の飾板とほぼ同じもので,もう一枚の同様の飾板が,ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館に所蔵されている。他に,躯の後半身を上に捻った動物を表す飾板を二枚調査することができた。この種の飾板は,多くの場合,透彫ではなく浮彫で文様が表されており,周縁部の枠は常に縄目文様で,裏面に鉦が付くという特徴がある。ダーレムの飾板は,この種の典型-132 -
元のページ ../index.html#150