ともいうべきものである。ストックホルムの東アジア美術館は,アメリカのサックラー・コレクションと並んで,オルドス青銅器の正に宝庫であり,千を以って数える資料が収蔵されている。その中で私の興味を惹いたものの一部を挙げると,次のようなものがある。短剣の柄を飾る動物意匠。2頭の虎が向い合って臥せた形の柄を持つ短剣は,既に発表されているものではあるが,それが南山根101号石榔墓出土の短剣の柄と類似していることを改めて確認した。この直線で毛皮を表した虎の文様は,挟西省宝鶏の西高泉村の春秋時代前期の墓から出土した短剣の柄にも表されている。早い時期の動物意匠の一つと考えられる。動物の様式は異なるが,やはり短剣の筒状の柄に向い合って表された動物意匠の例をもう一例加えることができた。通常見られるスキト・シベリヤ様式の動物ではなく,短剣の型式から考えても,やはり早い時期のものだと考えられる。動物意匠で飾られた鉄刃青銅柄の短剣。これは柄頭が2羽の鳥で飾られ,鐸に2頭の動物が付けられるもので,柄頭を飾るこの鳥の様式は他には見られない。また鉄刃青銅柄の短剣は,シベリヤではミヌシンスク地方やその他の地方,そして黒海沿岸でも知られているが,オルドス青銅器では今まで発表されていなかった。1986年中国で出版された『郡佑多斯式青銅器』においてようやく一例公刊されたが,他にはまだ類例が見られない。当然存在が予想されるものではあったが,実例を実見したのは初めてであった。刀子においても興味深い例を見出した。柄は断面I字形で綾杉文で飾られているが,柄頭には,2つの鳥頭と思われるものが付けられている。眼は貫通孔になっているが,その周りは環形に肥厚している。柄の構造,文様の特徴から,この刀子は遅くとも春秋時代の早い頃に置かれると考えられるので,この鳥頭も早い時期の鳥文様として一つの基準になると思われる。また刀子の青銅製鞘,刀子の鋳型を見ることができた。青銅製の鞘はミヌシンスクやアナニノでは知られているが,オルドス青銅器では未見のものである。鋳型は石製で,これもまた発表された例がない。小型飾金具も数多く見ることができたが,その中でも興味あるものは,南山根101号墓石榔墓出土のものとほぼ同様の動物形小型飾金具である。南山根例でははっきりしないか,ストックホルム例では肩と腰のところに同心円状の文様が施されている。南-133-
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