鹿島美術研究 年報第4号
152/268

山根の時期の動物意匠の特徴と考えることができよう。また鳥を象った特殊な形の小型飾金具も興味深い。これは殆ど同じ形のものが東カザフスタンのチリクタ・クルガンで出土しており,スキタイ時代初期の文化交流の早さ,広さをよく示している。大英博物館における収穫のうちでは,まず,カラスク文化の短剣に付けられた動物意匠を挙げることができる。カラスク文化の短剣とは,柄が中空で片面にスリットが入り,断面c字形を呈するという特徴をもつが,この例ではその柄頭に虎の立体像が付けられている。一般にカラスク短剣の柄頭は傘形を呈するか鈴が付くものが普通で,動物の付〈のは稀であるが,この虎は直線的な毛皮が表現されたもので,前述した西高泉村例,南山根例,ストックホルム例の短剣に表されたものと通ずるものを感じさせる。このような動物が,明らかにスキタイ時代以前に潮るカラスク文化の型式の短剣に付けられていることは,スキト・シベリヤ動物意匠の起源について,東アジアの演じた役割を重視しなければならないことを示すと思われる。また大英博物館では,ダーレムの帯飾板とよく似た浮彫飾板を見ることができた。それはグリフォンの形の角を持つ馬2頭と2頭の虎から構成されるもので,類似したもう一例が,米国のロサンジェルス郡立美術館に所蔵されているが,各々小異があり,ダーレムのものが一番複雑である。もう一例の興味ある飾板は,虎の躯の下に山羊が取り付いている場面を表した大型のもので,頭は正面を向いて立体的に表されている。毛皮や躯の線が突線で表現される。これは米国のフォッグ美術館(現サックラー美術館)やフランスのギメ博物館に類品がある。スキト・シベリヤ動物意匠としては,恐らく比較的早い時期のものと思われる。大英博物館ではシベリヤの青銅器をも調査した。大部分はミヌシンスクで採集されたカラスク文化,タガール文化の青銅器で,短剣,刀子,馬具などから成り,動物意匠で飾られたものも若干あった。普通ロシア以外では滅多に見られないものであるだけに,思いがけない収穫であった。中には動物の頭の付いたカラスク文化の刀子もあったが,本来のカラスク文化に動物意匠はあまり見られないものであるので,貴重な資料と思われる。以上列挙したものは,今回の調査旅行で調査し,記録したものの一部に過ぎないが,それぞれスキト・シベリヤ動物意匠の研究にとって意義をもつものである。特に早期-134 -

元のページ  ../index.html#152

このブックを見る