鹿島美術研究 年報第4号
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技術者としての製作活動は一体のものであり,それぱ快慶に典型的に指摘されると同様であったとい思われる。このような教団と仏師たちとの関係は旧仏教における場合とは本質的に異なるものといえ,それが制作活動に,そして作品に少なからず影靱を及ぼすことになったものと察せられる。(15) エトワルド・ムンクの自画像集成の試み一自画像論の考察に基づいて一研究者:静岡県立美術館学芸課長下山調査研究の目的:この研究は,研究者が企図する「自画像の綜合的研究」の一環をなすもので,かつて発表して自画像の原理的研究(「美学」No.135,そこでは主としてレンブラントの全自画像が考察の対象とされた)に基づいて所論の妥当性を20世紀最大の自画像画家ムンクにおいて検証するものである。論述は,広く芸術における自己表現の問題を展望する,自画像の問題性の芸術学的基礎づけを試みながら,その両極性の原理がいかにムンクの画業一般を支配していたか,したがって自画像に収敏されるムンクの画業の特色はいかなるものであったかを考察し,ムンクの自画像を能う限り収集・カード化して,ムンクの全自画像を(自画像の原理的考察にそくして)分類し,カタログ化しようと試みる。その成果は,本年に予定しているオスロ市立ムンク美術館の(未公開部分が多い)自画像調査を侯って纏められる筈であり,こうしたアプローチは例がないことから,今後の自画像研究,ムンク研究に資する所が甚だ大きいと考える。研究報告:標題に関する本年度の研究計画は,(l)文献に基づくムンクの自画像のカード化,(2)研究者の考察になる“自画像の両極構造”にてらしたムンク自画像の内容的規定,を試みるものである。その最終的成果は,本年に予定しているオスロ市立ムンク美術館所蔵の(水彩・素描を含む)多数の自像的表現の調査を侯って,整理されることになろう。以下では約30種の文献からカード化された,約100点のムンクの自画像とその評釈に基づいて,ムンクの全自画像を集成するための序論的考察を述べることとする。自画像とは,二元分裂的な作者の内的意識を持続的に整序し,これを克服せんとする志向に相應しい絵画形式である,と言ってよい。画家が対決する鏡の中の「私」は,左右の反転した自己ならざる自己,最も身近な他者にして最も疎遠な自己という,自① 自画像の原理-139-

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