香序この研究は当初の計画のようやく第一段階を終えたところで,基礎的な作品調査の約半数を残している。今後更に調査・資料整理を続け,最終的な考察,纏めへと向かわねばならない。因みに第2年度(昭和62年)の助成は残念ながらうけることができなかったが,次の機会に復活を期待しつつ,現在までの成果を取り敢えず報告する次第である。(21) 近世初期土佐派の研究一京都市立芸大所蔵土佐派資料を中心に一研究者:京都市立芸術大学大学院修士課程岩間調査研究の目的:現在,狩野派や江戸時代諸派の縮図や下絵などがある程度明らかにされている。それに対し,大和絵関係の縮図はまとまったものが紹介されたことがない。その意味で京都芸大の土佐派資料は大和絵の正系である宮廷絵所預りの家に伝来したものとして大変に貴重な存在である。また中世から近代に至る長期間にわたるものであるため,作画活動を系統づけるのに恰好の資料と考えられる。就中,桃山時代の下絵類は,同時代の乏しい画跡を補ない得る重要なものである。これらの検討から同時代の土佐派画人の作風や制作背景などを知ることができる。また下絵に該当する本画を探すことにより,現在筆者の不明な絵画の作者も判明する場合が出てくると思われる。大和絵の粉本の役割りを明らかにし,遺品の一つとして作風を分析する。粉本と本画を相互に補い合うことにより,より詳しい資料収集と研究が期待される。研究報告:今回多くの土佐家資料の中でも,比較的年代を決めやすい肖像画の下絵に焦点を絞り,その画風を精密に検討した。その結果桃山期の作に複数の画風を見出し,当時の土佐派を考える上に重要な手掛りを得るに至った。以下その概要を述べる。土佐家が堺に居住し,一般に衰退していたといわれる桃山〜江戸初期の実体を知るため,この期の画跡を抽出した。まず元亀から寛永に至る年紀をもつ肖像紙形と,この期の堺に関係の深い人物の紙形を選択した。そして年紀及び像主の不明なものについても,先に選び出した。これらは書きこみの書体も近世初期として異論のないものであり,土佐家の堺在住期の制作と考えられた。-164-
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