鹿島美術研究 年報第4号
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し描いた兵士たちの略奪や暴挙に見られるように,兵士はしばしば絵画の題材となってきた。ブラーメルとほとんど同時期にピーテル・コッデ(PieterCodde),ヴィレム・ダイステル(WillemDuyster), D ・クレッチャー(D.Cletscher)がこのテーマを扱っている。コッデがこのテーマを描いた一点では,兵士たちが集まってカルタ遊びをし,右側で腕を後ろで組んで,立ったままその様子を見ている人物,さらに立ち膝を付いてカルタ遊びをする兵士の後方で頬杖を付き居眠りをする兵士が描かれており,構図的にはブリヂストンの図を想起させる。あるいはダブリンにあるW・ダイステルの『兵士たちのいる室内』(1632年)では左手を腰に当て,右手で杖を握る将校が木の柵のそばに立ち,その後ろで兵士たちが車座になって坐っている。この油彩画も画面構成において,いくらかプリヂストンの作品に近い。しかし,こうした類似点はあくまで表面的で二義的な点に留まっている。というのも,第一に,コッデ,ダイステルなどにみる「衛兵の室」では,プリヂストンの油彩画の画面を支配する緊張感に欠けている。さらに何よりも,前景の兵士たちと後景の峨燭を囲む群像との有機的関連性を説明することができないからである。すっぽりと影に包まれたブリヂストンの油彩画の前景人物によって,観者の視線は自然に兵士たちの会話に向けられる。この兵士たちの集りには,K・バウホも指摘しているように一種緊張感が漂っている。この兵士たちの背後にある,アーチ形の入口の向うに,蠍燭を囲み甲胄を付けた兵士を含む4人の人物がいる。そのうちの一人が前景の兵士たちの様子を見つめている。構図的に見ると,現在のブリヂストンの油彩画が断片であってもこれらの前景とは,この作品の図像的内容と密接に関わっていると見るのが自然である。以上,この図のイコノグラフィーに関するこれまでの解釈とその妥当性について検討を加えてきた。だが,これまでブリヂストンの作品の主題を考察する際,レンブラントの他の作品と厳密に比較検討することがあまりなされてこなかった。この作品を他のレンブラントの作品から孤立させ,図像を検討してきた傾向が強い。今回の調査において,この作品がレンプラントのレイデン時代の直接の弟子の手になるとの可能性が一層高まったとはいえ,イコノグラフィーの決定にはレンブラントが関わってきたと考える方が自然である。プリヂストンの図に署名があることは,この図がレンプラントと密接に関わっていたことを示すといえるからである。そこで,このプリヂス-198 -

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