鹿島美術研究 年報第4号
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研究実施の状況とその成果:アンリ・ユドゥリジエ氏の来日は,日本の美術史研究における,最も今日的な研究課題である,美術研究と情報処理,という問題に大きな一石を投じることとなった。フランス共和国は,周知のとおり文化というものに対し,常に高度の関心を持つ国家である。たとえ,今日のように,自国の経済が曲がり角にあるような状況においてですらも,国家百年の計としての文化政策に手を抜〈ことをしない国である。それは,社会主義政権のもとでも変わることなく,むしろ近年は一層文化立国としての性格を強めている。オルセー美術館の開館がその一例であり,またルーヴル美術館の改装計も驚くべきその文化政策の一つである。美術研究のなかでも,特にその一分野である博物館学においても,そうした意味で,フランスは常に世界をリードしてきている。例えば,パリの最高学府である,コレージュ・ド・フランスのテュイリエ教授が,バロック美術研究の世界的な権威であるとともに,同時にそのゼミナールでは,「美術研究と情報処理」を課題としているのは誠に興味深い。ユドゥリジエ氏は,このテュイリエ教授の技術上の顧問として,最先端の研究を続けている技術者である。今日,氏を日仏美術学会が招き,講演を依頼した理由は,「画像資料館(イコノテック)」L'iconothequeによって,世界的に評価の高い氏に,フランスの状況を紹介していただき,更に日本との今後の共同研究の足掛りをつくろうとする意図からであった。日仏美術学会全国大会での講演は,こうした現在のあり方を踏まえてのものであったが,まずその大会の成果を簡単に述べたい。まず,こうした大変アップ・トゥ・デートの問題を扱ったせいで,若い世代の関心を呼び日仏会館における会場は盛況そのものであった。また,日本電気を中心に,コンピュータ機器を現場に実際に設置しながらの具体的な研究発表であったため,通常の謹言実直な美術系学会ではまず見られない熱気が会場に廿長っていた。発表内容は,大きく分けて(1)画像処理,(2)文献処理のが議論の中心であった。特に,やはり美術研究で最も関心の深い,画像処理問題では,大和文華館の早川聞多氏が,柏木研究所(ネクサス)の機器を現場に置きなか27日柏木研究所(ネクサス)の画像処理機器,NHK等を視察28日建築情報センターを視察30日離日-205-

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