鹿島美術研究 年報第4号
255/268

4)にも観察される。一方「フランシスコ会士の聖母」の蝶番の針穴が基底材の裏側まDaddi)作「三連祭壇画」(縦49.5,横56.8cm)等にも観察することが出来た。で貫通しているか否かは,現在裏面全体が後補の石音層で被われている為確認する事は難しい。3月末の10日間,ローマに滞在。この間ヴァティカンの絵画館及びパラッツォ・ディ・ヴェネツィアを訪ねた。殊にパラッツォ・ディ・ヴェネツィア美術館収蔵'一祭壇画」(縦22.0,横14.0cm各パネルとも同サイズ)を調べる必要があった。ガリスンは,同作品を14世紀ヴェネツィア派の作と推定したが,現在美術館では14世紀シェナ派の作と帰属されている。左右パネルとも各々上下に画面が二分され,左パネル上辺に「ヨセフを伴う聖母子」,下辺に「聖ラウレンティウス,聖ピリポ,洗礼者聖ヨハネ」が描かれ,右パネル上辺に「十字架傑刑」,下辺に「聖フランシスの聖痕拝受」が描かれている。すなわち,この二連祭壇画から推察される様に,「十字架礫刑」と「聖フランシスの聖痕拝受」は,しばしば関連させられ,同祭壇画の図像として組み合わされる事があったと思われる。その他「十字架傑刑」と「聖フランシスの聖痕拝受」が同じ祭壇画に現れる例としては,前記フォッグ美術館収蔵「三連祭壇画」やウフィツィ美術館収蔵ヤコポ・デル・カセンティーノ(Jacopo del Casentino)作「三連祭壇画」(縦39.2,横42.2cm),メトロボリタン美術館収蔵ベルナルド・ダッディ(Bernardo上記の例を踏まえると,現在の段階では,ドゥッチオ作「フランシスコ会士の聖母」の左右パネルの図像を推定する際に,「十字架傑刑」及び「聖フランシスの聖痕拝受」の両図像が最重要な手掛りを提供するかと思う。殊に様式的復原を試みる場合には,フォッグ美術館収蔵のドゥッチオ派に属す「三連祭壇画」(収蔵番号1922.108)が重要な鍵となるであろう。以上が今回の海外における研究活動状況の概略である。-237-

元のページ  ../index.html#255

このブックを見る