つ。この結果として,当教室への受験者入学者の自然科学的素養のレベルは,それを平均化すれば全日制普通課程の高等学校レベルに設定するほかはない。しかるに,現行の高校カリキュラムではその理科カリキュラムの内容はかなり程度の低い内容の圧縮されたものとなっており,当然のことではあるけれども前述の室での教育内容に直結できるものでは到底ないのである。例えば,放射能,X線,化学結合等の知識は皆無に等しいのである。この現状は,単に当方への入学者その他若い学生の問題にとどまらず既に杜会に出て実践活動している,学芸員,修復家,その他関係者に共通した問題であると考えられる。教室内の問題は,カリキュラムの改訂入試制度の見直しあるいは更に大きく,保存関係の4年制学部開設など実現の成否は別として,十分に解決策を考えることができる。しかし,すでに完成された一職業人としての文化財関係者の理科的素養の向上は極めて困難な別問題であろう。たしかに,保存関係者と純正自然科学者(こんな名称はないが)との知識,感覚上のギャップは極めて大きく修復は困難である。これは,ともに完成され固定化した(即ち,自律性autonomy)知識経験の体系間のギャップ(上下,優劣ではなく)でもあるわけである。一種の中間領域,純正科学と文化財学との間の境界を占める我々保存科学専攻者が,このギャップを埋めることが出来るのではないか。この点にも今回のシンポジウムの意義があるわけで,今後,国際的な連帯を含め問題意識を高めて行く必要があると思なお,今回のシンポジウムでの討論を通じ,保存科学関係の教育者の連合学会設立が提案され多数の賛同が得られ,62年度以降さらに協力努力することが合意された。-242-
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