鹿島美術研究 年報第4号
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11.尚古集成館における島津家資料の調査研究(その2)一江戸時代鹿児島の絵画資料を10.ヴィクトリア朝挿絵本の研究の調査に際して日本人研究者の果たす役割は少なくないと考えられる。研究者:早稲田大学文学部助手谷田博研究目的:世に挿絵と言うと,あ〈までテクストに依存する藝術性の低いものと考え,挿絵の入った小説や詩集といったものに否定的な口吻を漏らす人がある。またややもすると挿絵はテクスト本来の純粋な喚起力を歪め,読者に一つの偏った見方を強いると断ずる人さえある。無論,中には好ましくない挿絵がないわけではないが,そのような例は論外として,例えばL.キャロルの『不思議の国のアリス』(J.テニエル画)やサミュエル・ロジャースの詩集『イタリア』(J.M.ターナー画),モクソン版『テニソン(J. E.シレイ,w.ホウルマン・ハント,D.G.ロセッティ他画)など非常に豊かな結びつきを示した例があることも否定できないところである。このヴィクトリア朝の挿絵本の研究を通して所期の目的に加え,挿絵というものが如何に豊かな可能性を秘めた形式であり,また挿絵の研究が「絵画と文学」あるいは「イメージと葉」といった長い歴史をもつ本質的な問題の検討にとってどれほど恰好の与件であるかを証したいと考える。デザインを中心にヴィクトリア朝美術の研究を続けてきたものとして,この挿絵の研究がとりわけナラティヴな傾向の強かった当時の英国絵画,また逸早くアール・ヌーヴォー的傾向を見せることになる英国の工芸・デザインと共通する様々の問題の解明にも資するものであることを確信する。また挿絵本の歴史の研究というものが,必然的に絵画史,版画史,デザイン史,印刷出版史,文学史等を考慮に入れざるを得ないため,ヴィクトリア朝の文化に対するより立体的で幅広い理解が得られることは,この研究の特筆すべき意義と言ってよいだろう。中心にして(共同研究)〔継続〕研究代表者:鹿児島大学教育学部助教授研究目的:鎌倉時代より,鹿児島の文化において中心的存在である島津家の資料が所蔵されて-29 -永田雄次郎

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