岡淳めがねえどろえ13.京狩野家伝来文書粉本・日記類の調査12.江戸時代後期の美術における西洋銅版画の影響について18世紀後期から幕末までの約100年間のうちに西洋の絵画の影響がどのような形で庶研究者:神戸市立博物館学芸員研究目的:徳川吉宗が享保5年(1720)に出した,西洋の「邪法教化(キリスト教)の記事にあらざる書物」の輸入の緩和は,その後の蘭学の興隆への契機となった。中でも長崎・出島を通じてもたらされるオランダ文物,特に銅版画の挿図を豊富に収録した医学書,本草書や動物図譜などの科学的書物が注目される。しかし,それらの科学書の流入は,当時の知識人層に及んだ西洋の影縛のひとつであって,江戸期の庶民間に浸透した西洋画法は,これらの書物の検証のみを通じて推定できるわけではない。民のレベルにまで及んで行ったのか,というテーマを設け,浮世絵,のぞき眼鏡という視覚娯楽器具,それに付属した眼鏡絵という鑑賞画,泥絵という「西洋風」の濃彩絵画などを細かく観察し,ひいては,それら庶民絵画へ影響を与えた西洋の民衆版画を特定することにより相互の影聾関係を明らかにする。つまり庶民版画のうちの西洋表現の検証と,西洋版画の中にみられる東洋趣味の両方を考察し,相互の文化の接触と変容のありさまを明らかにしようと考える。資料を探査することの困難さと,民衆絵画に対する一種の偏見から従来,等閑に付されていたこの分野に光を与えようと意図する。東洋と西洋の眼鏡絵を比較することも意義深いことと考える。研究者:大阪市立美術館主任学芸員脇坂研究目的:究極の目的は京狩野の全貌を明らかにすることであるが,当面は,狩野ツルヱ氏宅に伝存する「粉本」「日記類」の精査にある。同家文書は伝存の所在場所からいっても「海北家文書」と同様に第一級の資料的価値をもつ。それらが解明されれば京狩野研究の基礎的な面がかなり補強され,また,「日記類」は幕末期の禁裏御用の状況や,幕末から明治へと体制が転換する時期の‘画家の生活”を明らかにしてくれる。泰正-31 -
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