鹿島美術研究 年報第4号
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15.牧裕に関する総合的研究16.敦煙四天王図像の研究研究者:東京大学文学部助手山下裕―研究目的:中国絵画史における牧硲の地位は,単に禅宗絵画という枠内にとどまらず,南宋から元へかけての総合的な絵画史の内で捕らえ直さねばならないことは,近年研究者の間で共通の認識となってきたと言える。実際,現存する牧癸谷画,伝牧裕画は山水,人物,花丼雑画など極めて広汎なジャンルにわたっており,禅僧の余技という範疇ではとてもおさまりきらないことは言うまでもない。また従来より,後代の画壇において牧癸谷は中国絵画史の傍流とみなされてきたらしいことはしばしば指摘されてきたが,実際には特に花丼雑画のジャンルにおいてはかなりの影閻力をもっていたことが文献からもうかがえる。日本の中,近世絵画に対する影需力の大きさは今更いうまでもないが,具体的な作品の伝来状況については不分明な点も多〈,今後の課題となろう。また,牧癸谷の影牌下にあると思われる日本の作品を資料として活用することによって,現在文献にのみその存在をとどめる作品を考察する際の手掛りとなることも考えられる。このような問題意識をもって中国,日本双方の牧諮資料を集成することによって,今後の研究者に本研究の成果を資することは極めて有益であろうと考える。研究者:東京国立博物館資料部研究員研究目的:敦煙壁画は近年ようやく敦燻莫高窟に限らず隣接する地方の石窟群についても良質の写真資料が入手可能な状況となったこと,これまでの研究成果の蓄積からみられるものの四天王図像については総合的な研究がないこと,上にわたって描きつづけられた画題であるが様式史の観点からの研究がないこと,図像の伝承と経典との関係についての考察が可能と考えられること等の理由から今回の研究を立案した。可能な限り写真資料を収集する。壁画の構成要素として四天王図像が現れる場合,その窟の開羞年代や壁画部分の塗り重ねなどの点について日本,中の最新の成果を参照しながらその制作年代を推定する。明らかとなった結果に基づいてカードを並べ替え,様式上の変遷を辿り,幡絵の編年作業を実施する。その際,画題から所依経典を検討し,必要に応じて経典をカード化する。また大英博物館やギメ信祐爾においては千年以-33 -

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