る訳ではなく,より複雑な様相を呈している。形態の自己主張•その文学的イメージ18.室町時代山水図モチーフの文学的背景と自立過程(共同研究)絵画史的研究と思想信仰的研究の双方を合致させて仏教美術史における本作品の義を明らかにしたい。研究代表者:東京国立博物館研究員高見沢明雄研究目的:室町時代水墨山水図において,絵画モチーフは背景としてもつ文学的意味が失われあるいは意味の制約から脱して,形態自体として独立してゆく方向にあった。これはうまでもなく造形芸術,特に絵画においては普遍的な課題であるが,特に室町時代山水図は漢詩を中心とした中国文学との関係が深く,これが典型的に現れた好例ということができる。15世紀前半の水墨画は禅僧たちの極めて私的な場で成立し,鑑賞されたため,禅僧たちが絵画から得るイメージにも詩的なイメージが色濃く反映されていて題画詩との関係を抜きにしては考えられない。しかし15世紀になると,例えば雪舟等楊の作品はモチーフを前面に押し出し,文学的意味によらず形態そのものとして自立する段階にいたっている。しかしこの形態の自立過程は,大局的な流れとしては把握できるものの,個々の事例についてみれば決して一様に展開したものとはいえない。例えば雪舟の作品においても,形態が自立したとはいえ,果してそれに象徴的意味がどの程度こめられているか,にわかに決しがたい。また題画詩と絵画との関係も決して単純に一対ーに対応すへの取り込み・文学の絵画への規定性など,この関係の中で生じる様々な現象を記述することは,室町絵画の構造を理解するための基礎作業であるが,従来十分になされているとは言い難い。こうした一見複雑な状況の中で表記課題を具体的に跡づけ理解しようとすると,に絵画モチーフに文学的意味を与えるに留まっていては十分ではなく,それらの対応関係・相関関係の強弱にまで踏み込んで解釈できるようにすることが必要である。つまり,ある程度定量的な分析の手法が必要とされる。しかし残念ながら絵画モチーフと文学的な意味との関係を定量的に分析する手法はまだ確立されていない。そこでこの研究では具体的な資料に基づき,これを出来るかぎり網羅的に扱うことにより,定量的な評価の試みとする。-35 -
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