鹿島美術研究 年報第4号
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20.フランス・ゴシック絵画における建築モチーフの写実性19.仙届壮年期における基準作の確定研究者:福岡市美術館学芸員中山喜一朗研究目的:時代には,強力な幕藩体制のもと仏教美術においては活き活きとした創造的活動はあまりなかったと考えられがちであるが,中央をはなれた在野にあっては白隠の禅画円空,木喰の木彫仏,良寛の書跡など各分野にわたって「野の僧」たちの真摯な創造活動による豊かな実りがあった。仙厘の禅画も,こうした江戸時代における仏教美術の実りの一つとして,またその基本的性格は白隠の衣鉢を継ぐものとして理解されるべきであるが,仙厘芸術の正当な評価と位置づけをなすためには,今後に残された課題も多い。それはつまり,明治期以来の仙厘の禅画に対する評価が,美術史上の問題としてではなく,晩年の戯画的表現にみられる寓意や,民衆教化の実践手段としての禅宗の教義的意味,価値に偏重してなされていたことに起因する。従って美術史の視点から仙厘の禅画に対する基礎的研究がこれまで充分になされてきたとは云い難い。この調査研究の目的は,美術史上の位置づけと評価をなすための,判断材料となる基礎的資料の集積にある。特に仙厘の生涯と画業の中では,彼が博多聖福寺の第123世住持となる40歳以前,つまり福岡に来る以前の修業時代の事跡が,既知の資料の乏しいこともあって不明な点が多い。なかでも30歳代は仙厘が近江から東海,江戸を経て奥羽地方にまで及ぶ行脚をした時期であり,彼の絵画や書に関する研鑽も,この行脚時代になされたはずで,見逃すことのでにない重要な時期でありながら,これまで調査が最もなされていなかった訳で,この頃の基準作の確定は,仙厘の基礎研究における急務である。研究者:群馬県立女子大学文学部助手前川久美子研究目的:建築肖像の写実性の高まる時代は,人物の肖像画の誕生,自然モチーフの写実化の発展する時期と重なる。主題の要求する主人公や情況を,象徴的,抽象的に特定するのではなく,現実世界からそのまま直接移されたような印象を与えることを旨とするのが自然主義だとすれば,建築モチーフの写実性の問題もこの動き-36 -として捕え

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