鹿島美術研究 年報第4号
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られよう。つまり,この研究は,<ゴシック自然主義〉の一面を明らかにすることを目的としている。建築の写実性の高まりは,思想的社会的背景の変化と無関係ではなかろう。自然主義一般を助長していく要因,あるいは,建築モチーフの写実性を特に発展させる要因の一部は,ここに求められよう。この時代の国際芸術交流の活性化は,フランス美術における建築モチーフにいかなる影糊を与えているのだろうか。13,4世紀の建築ポートレートの実例を残すイタリアとの関係を追求する必要があろう。モチーフの特殊性のために,狭義の絵画作品以外も考慮しなければならない。とりわけ,実際の建築とより緊密な関係にある,建築デッサン,ステンドグラス,またエ芸品が問題となろう。以上の三点を中心に建築ポートレートの成立発展の理由を考えてみたい。21.塚本貝助についてービングと日本(3)研究者:京都工芸繊維大学工芸学部助教授研究目的:かを明らかにすることが全体目的である。これは,西洋側にとっては美術工芸上の様式成立の解明に役立つだけでな〈,日本側にとっては文化の輸出,更には国際的な視野のもとにおける産業政策という点でも有意義である。このような日欧双方に有益なこの研究の成果をあげることは日本のこれからの学問研究にとっても国際的な意義をもつと考えられる。この研究はまだ最終的な結論を得るまでにはいたっていないが,研究の構想とこれまでの成果に対して昭和61年2月ジャポネズリー研究学会賞が与えられた。なおビングと日本の関係の調査ではパリにおける調査も欠かせないところであるか,現在はアメリカのG.ワイスバーグ教授の研究成果にもとづいて進めている。この研究の性格上やはり将来はパリにおける調査を是非行いたいと考えているし,ワイスバーグ教授やオランダの研究家P.ファンダム氏との討議も必要となるだろう。19世紀の「アール・ヌーボー」様式に対して日本の美術工芸が与えた影縛を解明する基礎的事実として,s.ビングがどのような経路を経て日本の美術工芸品を入手した-37 -島久雄

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