鹿島美術研究 年報第4号
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24.三重県の仏像の調査研究(共同研究)あった。ところが実はユーゲントシュティールは,芸術と生活ひいては芸術とデザインの統一を鼓吹した当代特有の総合芸術運動であり,その総合の思想において,また多彩で独創的な活動力の生成において,今世紀初期の近代運動の注目すべき出発点のひとつでもあったと思われる。そこで,当時ドイツ各地でユーゲントシュティール運動の中心を形成した総合芸術誌に注目し,これらの意味とこれらとユーゲントシュティールの関係を多視点から考察することによって,近代ドイツにおける総合芸術誌の全体像とその潮流,総合芸術誌に直接映し出されたユーゲントシュティールの理論と所産,工芸やデザインの改革運動とユーゲントシュティール運動との関連,ューゲントシュティールのグラフィック作品の動向,そしてユーゲントシュティールの書物芸術などについて実証的に研究を行う。研究代表者:三重大学教育学部教授松山鉄雄研究目的:三重県下の仏像に関する総合的な基礎資料の集成が,本調査計画の主たる目的であるが,従来の個別的報告や研究をふまえ,これを更に充実し拡大する方向で,調査を実施したいと考えている。三重県には,近年広く知られるようになった夏見廃寺(名張市)をはじめとして,白鳳時代の寺院址も多く,最近も次々と興味深い考古学的な発見が続いている。それらは,言うまでもなく当地に古くより仏教とその美術が浸透し定着していた痕跡であるが,これは美術史的にも看過できない資料である。なかでも,伊勢(神宮・斎宮)と明日香を結ぶ道筋や,三重県域を通る「壬申ノ乱」の道筋は重要で,そこに点綴する古代寺院址とその出土品は,背景的な事情を考慮して取りあげるとき,すこぶる興味深い対象となる。多数の連仏や紀年銘塘の残欠を出土した夏見寺などは,その最たるものである。一方,中世初頭においては,東大寺復興造営の一翼を担うかたちで,伊賀の阿波庄をはじめ周辺の諸庄が注目されるが,俊乗房重源の積極的な勧進の動向は,伊賀別所(新大仏寺)の周辺にも数々の痕跡をとどめている。こうした三重県域の美術史におけるいくつかのハイライトは,当地が明日香や奈良-39 -

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