鹿島美術研究 年報第4号
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28.海住山寺五重塔内壁扉画の研究29.美術史的文脈におけるロセッティとラファエル前派再考研究者:慶應義塾大学大学院博士課程研究目的:海住山寺五重塔は鎌倉時代初期南都における最重要の僧の一人,解脱房貞慶の強い影榔下に建保二年(1214)頃建立されたが,塔内には当初の荘厳画(内陣扉各面に一体,計八尊像と柱貫等に植物などの装飾文様)が残存しており,鎌倉時代初期の一級の絵画資料として貴重である。扉絵像の図様についての検討は既に試みられているが,その様式の考究は必ずしも充分ではなく,装飾文様についてはほとんど具体的な調査研究がなされていない。私見によれば扉絵像の中にも宋代図像の影孵が認められるが,殊に装飾文様にはかなり思いきった宋代文様の採用がみられる。以上の宋代美術との関連という問題は,鎌倉初期の南都仏画のみならず仏教美術一般の特質を探る上で最も重要なポイントのひとつになると思われる。海住山寺塔壁画が諸仏画遺品の中でも本格的な宋風受容を示す最初期の遺例としての価値が高い。なお,その扉絵の図様は他の南都作品とも密接な関連性を有しているので,本作品の研究は鎌倉時代南都仏画全般に及ぶ研究といえる。このような海住山寺塔壁扉画の考究に際して,特に宋代仏教美術の正確な認識が不可欠であり,日本所在の宋代作品の調査を併せ行う。ただ,日本には北宋期の仏教遺品が極めて乏しいので,その資料を中国に求めるほかはない。幸い中国には北宋期仏教遺跡が現存し,これの実地見学と資料収集に鋭意努め,研究の進展に資したい。以上の知見を総集して海住山寺五重塔内壁扉画の美術史的な位置を明確化したいと考える。以上の成果を通して,鎌倉時代の南都仏画全体の特質を明らかにし,更には南都に限らず鎌倉時代仏画の本質(平安仏画に対する)の問題を解明する大きな作業の一基盤を礎きたい。一彼らが得た影響,与えた影響ー研実者:独協大学・実践女子短期大学非常勤講師高橋裕子研究目的:これまでルーベンスを主たる研究対象とし,また特にルーベンスと過去の芸術との関係に注目してきた。そのような対象に親しんだ目でラファエル前派の作品を見ると,林温-42 -

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