鹿島美術研究 年報第4号
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30.新人画会に関する調査研究初期のラファエル前派の徹底した写実には15世紀フランドル絵画の影響が認められ,また特に中期以後のロセッティの場合,ティツィアーノとミケランジェロという「ラファエロ以後」の芸術家からの構想,モティーフ,人物タイプの借用を具体的に指摘することができる。そしてわれわれが通常ラファエロ以前のルネサンス画家として直ちに想起するマンテーニャやボッティチェリの影響は本来の「ラファエル前派」の追従者たちの世代に至って初めて顕著となるように見えるのである。にもかかわらず,これまでラファエル前派と過去の芸術との関係は「ラファエロを範とするアカデミズムの因習的画風を否定し,ラファエロ以前の素朴な写実に立ちかえることを目ざした」というような決まり文句で処理され,それ以上の探究がなされることはなかった。そしてとりわけロセッティの場合,その芸術の展開は専ら女性関係という実生活上の出来事から説明されがちであった。これは美術を論ずるに当たり極めて不適切な方法であって,ロセッティの芸術の充分な理解に至り得ず,また彼の芸術を歴史的にも地理的にも不当に孤立させてしまう。このような傾向が支配的だったのは,ロセッティをはじめとするラファエル前派の絵画が造形性よりも主題を偏重する「文学的」なものと見なされて美術史家に軽視され,主として英文学者によってローカルな芸術運動としてのみ扱われてきたことによるように思われる。実際には,ラファエル前派はラファエロ以後の芸術にも多くを負っていたし,また同時代から世紀末にかけて,フランス,ベルギー,ドイツ語圏の美術に少なからぬ影響を与えた。ラファエル前派を美術史的コンテキストの中で再検討することは今日の美術史家の急務の一つである。研究者:東京国立近代美術館研究員田中研究目的:昭和という時代を検証するとき,戦前,戦後と称することであたかもすべてが一変したかのような印象を与える。しかし,本質的には,戦前と戦後の間に大きな断絶があるというよりも,継承されるべき課題が多くあったはずである。その点から,戦時下の厳しい状況のなかで,真に創作の名に値する作品を描きつづけることのできた新人画会の画家たちは,正に継承の意味を担っていたといえるだろう。彼らによって継承された課題とは,昭和初年から暗転する時代を拮抗しつつ,強く意識されるようになったヒューマニズムの問題ではなかったかと思われる。そこで新人画会の実態を調-43 -淳

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