鹿島美術研究 年報第4号
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33.院政期主流仏師(円・院派奈良仏師)の動向とその遺品の研究どされていない。基礎的な調査によって末発表作品の発掘も合わせて行い,上述のような新たな視点から明清版画を考察し,中国版画史の体系的理解を深める端緒とする。これまでの中国版画研究としては鄭振鐸氏の『中国版画史図録』の大著を初めとした概論,総説的な研究や最近では周蕪氏の『徽派版画研究』など個別の研究によって,中国で重大な成果をあげている。同時に中国側の貴重な資料,情報を提供してくれている。しかし,版画史の枠組みの中での論議にとどまるものであり,日本,欧米のみに伝わる孤本などは含まれていない。明清版画のすぐれた作例が当時の有名画家の版下によるものであったり,万暦末年に上梓された一連の画譜が中国歴代絵画を総括するような教科書的な内容で編集されていたり,版画制作は画家の芸術活動の一環としてかつてなく重要な意味をもってくる。そこで版画史の枠内で発展を論じるのに加えて,版画が絵画史全体の中でどのような重要性を占めるかを考察する必要がある。版画の人物像や山水の景か‘,明清の人物画風,山水画風をどのように反映しているものなのかをも具体的に明らかにして行きたい。研究者:東京芸術大学美術学部非常勤講師武笠研究目的:院政期彫刻史は,現在次の二点を中心にして研究か進められている。まず,主に文献史料からの研究で,公卿日記等の諸史料による,中央造仏界の造像活動と正系諸派仏師の事績の研究であり,これがこの期の彫刻史研究の主軸をなす。一方,現存作例の研究として,この期の膨大な造仏事績に呼応して増える年紀を有する在銘作例の紹介と作品研究,そしてそれを利用した様式研究である。いずれも諸先学により多くの成果があげられている。しかし,文献面では中央造仏界の状況及び正系仏師の動向がかなり克明に知り得るのに対し,それに呼応する現存遺品の検証は,わずかに数例について試みられているにすぎず,この期の中央様式の展開を語るにはあまりに不備な状況であり,様式研究の大きなネックとなっている。そこで,文献に見る造仏記録と現存遺品を結びつける作業として,院(白河・鳥羽・後白河)・天皇・女院・摂関家(藤原氏等)等宮廷貴顕を発願者とする,中央正系仏師の造立になる中央本格作例を可能な限り探し出して,その資料的価値を確認する。それを真の基準作例として重視し,院政期様式研究の核とするものである。文献による45 -朗

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