36.美術研究における画像処理コンピューターの応用研究(共同研究)ことは15世紀においては浙・呉を明確に区別すること自体に問題があるのではないかという疑義を生じさせ,その再検討が要求される,また浙派というもの自体が非常に多様な画家の集合体であり,江南地方の諸都市における画家たちの活動は,もう一度,改めて検証する必要があるといえる。特に浙派を大く変容させた呉偉の活躍地であった南京の画家たちの明代に果たした役割は,呉派の中心であった蘇州や杭州をはじめとする浙江,あるいは福建など他地方の画家たちの果たした役割と対比して考察する必要がある。この研究は呉偉とその周辺の画家たちの資料を収集・整理する作業を通して上述の諸問題を具体的に明らかにしようとするものであり,呉偉と南京画壇に焦点を当て明代における浙派のもつ問題に再検討を加えていこうとするものである。研究者:大和文華館学芸部係長早川聞多研究目的:美術研究において,比較して見るということは大変重要なことである。例えば単純な例を言えば印章や描線の比較などよく行われる。更にある作品の中の構成要素の大きさ,配置変え色を違えることにより,原作品の特質を浮かび上がらせる方法もある。このような場合,従来ならば写真を並べて肉眼で判定したり,画像を想像して比較することが通常であった。こうした不確賓な方法しか執り得なかった理由は,研究のためとは言え貴重な作品をひんぱんに動かすことなど避けなければならないし,部分的に色や構図を変えた画像などそう簡単には作れなかったことによろう。我々が画像処理コンピュターを美術研究に有意義に利用できるのではないかと考える大きな理由は,以上のやうな美術品特有の問題を解決する道が開かれると考えたからである。とはいえ,こうした機器を活用するならば,原作品を以ってしては不可能に近い画像の合成が色変え,構成要素の拡大縮小,移動といったことが,容易に行うことが出来るのである。このように,比較材料をその場で,簡単に他人に見える形で提供できるようになれば,美術研究のみならず美術教育においても有効とならう。-47 -
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