鹿島美術研究 年報第4号
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1.琳派を中心とした在米日本絵画の調査研究研究者:京都大学大学院文学研究科博士課程安田篤研究目的:琳派を中心とした在米日本絵画を調査研究しようという目的の一つは琳派の重要な作品がアメリカの美術館に所蔵されており,それらの作品を実際に見て調査し,資料を収集する事にある。例えば,ワシントンのフリーア・ギャラリーには宗達の代表作と看倣されている「松島図屏風」,「雲龍図屏風」及び「扇面貼交屏風」等の宗達派の優品があり,ニューヨークのメトロポリタン美術館には光琳の「八ッ橋図屏風」「波濤図屏風」が,またボストン美術館には光琳の「松島図屏風」が所蔵されており,これらの作品の検討を除いては琳派の研究を進める事はできない。しかも以上に挙げたような諸作品は日本で開かれる展覧会に出品される事は稀であり,中でもフリーア・ギャラリーの作品は館外持出が禁止されている為に現地で調査を行うほかはない。従って,作品の精細な分析の上に立って琳派研究を進めて行く上で,在米琳派作品の調査は不可欠であり,極めて大きな意味を持つ。また,アメリカの美術館に所蔵の琳派を比較検討する必要があり,かっ,日本絵画史全体の中で琳派を理解する上で有意義な諸作品も所蔵されている。従来,琳派,特に宗達や光琳の作風の特色については彼らの天才に帰されがちで他流派の作品との比較はあまり行われる事はなかったが,中世から近世にかけての大和絵系作品等と比較する事が特に宗達の様式を理解する上で重要であると私は考える。しかし,中世から近世にかけての大和絵系作品に関しては未だ研究が十分進んでいるとはいい難く紹介された図版類も少なく,在米作品でもメトロボリタン美術館が所蔵する土佐光吉筆「関屋御幸浮舟図屏風」のように,その存在が知られていながらカラー写真の入手すら困難なものが多い。従って在米作品中,このような作品について調査し,写真資料の収集を行う事も一つの目的である。国際交流の援助-48 -

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