鹿島美術研究 年報第4号
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3. 15世紀フランドルとイタリア交流に見られる風景の展開と機能3)交流の重要な接点であったと既に指摘されて久しい(Meiss,Chatelet),パドゥ1)研究史的には,まず交流史との関連でその重要性を指摘されながらも,まだ本格2)同時にこのことは方法論的な反省と新しい試みを含んでいる。従来の交流史研究研究者:大阪大学大学院文学研究科博士課程小林典研究目的:的な研究の対象となっていなかった風景の問題を初めて中心的テーマとしてとりあげること,次に,風景を中心的テーマとする交流史を考える時,Meissの「プラトー構図」概念はこれまでの研究のうちで理念的,構造的問題について最も具体的な暗示を我々に与えるものであり,その重要性を再確認するとともに,彼が示唆し略図を描くにとどまった問題の深化と発展を企てることにある。は最も最近のL.C. Vegasによる総合的著作(1983)に至るまで,例えば風景に関して,借用モチーフ(岩や川)や様式上の類似(例えばメムリンクの風景とペルジーノの風景)あるいは相違(イタリアの“フ]ルム”“空間”に対してフランドルの“空気”etc.)の指摘に富むが,必ずしも両者の風景がもつ内在的機能や構造の連関性を明らかにしているとは言い難い。様式比較,対献資料の新しい提供及び解釈に主たる方法が求められてきた,いわゆる“比較研究”を超える手段の一つとして,この研究は当時の絵画が自明のこととして担ってきたAndacht(祈念的)機能を軸として,両者の風景表現に造型的・意味論的構造分析を加えようとする試みである。またこのテーマは,キリスト教図像史の上で原理上看過されざるを得なかった図に対する砥の問題をAndaditsbild図像史の一貫としてとりあげようとするものであり,しかも観者との関係性において成立する絵の心情的・詩的機能を分析の対象とすることであり,この限りにおいて従来の美術史的方法論のみでは包括しきれない,ょり多面的問題に我々は面しているといえる。ヴァ,ヴェネツィアに加えてフェルラーラの三都市の交流状況に具体的解明を試みる研究である。-50 -

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