鹿島美術研究 年報第4号
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図3Passion 14 下絵と思われる。油彩画の主題的対立を強調しているこのような色彩は,再現的な色彩というより,むしろ色彩の固有価値を重視した象徴的色彩に近かったが,しかしそこにルオー固有の色彩象徴を見出す事はできなかった。そこに用いられた色彩の対比が強調される方向に変化している事(口絵1・2)。ここでは二人の位證関係が左右入れ替っているのは別として,油彩画では湖水部が拡大され,背景の山はほとんどな〈なっている。ところがそのため,湖水の青・緑の左人物の紫,右人物の橙・黄の色面がそれぞれ補色対比を強化し,固有の輝きを高めている事がわかる。また別図では(図5• 6),風景の中に点在していたモティーフがすべて省略され,単純な色面だけの構成に還元されており,その印象はむしろ抽象絵画に近い。このような抽象化された単一色調による色面を,ここではcolorfieldと呼んでおこう。油彩画の輪郭線で囲まれた一つの造形的プロックの内部は,基本的にこのcolorfieldによって構成されている。中でも各作品に見られる灰緑青の縁取りは,典型的なcolorfieldの特性を示している。なぜなら,それが一方で現実(イメージ)を覗き見る窓枠として,イリュージョン効果を高めつつ,他方では色面の持つ固有価値によって,抽象作第2に,下絵から油彩画へ移行する際の構図の変更や,形態の拡大・縮小・変形は,-70 -図4Passion 14 油彩

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