鹿島美術研究 年報第4号
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図5Passion 53 下絵用を及ぼすという,両義的性格を有しているからだ。ーム,明暗法などの空間表現が,油彩画では色彩のニュアンスと色価対比に置き換えられている事(図3• 4)。つまり,「奥行きや空間が,デッサンによるというより,むしろ色価の作用によって翻訳されている(7)」のである。ところで,このような言わばイリュージョン効果を持った色彩によるルオーのcolorfieldを,マチスの平塗りaplatsと比較して見るのは面白い(図7)。マチスは,「私は平塗とした(8)」と語っているが,そのaplatsは,基本的に単ーで均質な色彩によっている。これに反しルオーのcolorfieldは,単一色調とは言うものの,そこには様々な色彩のニュアンスが塗り込められており、何よりも色彩はmatiereと緊密に一体化している点が根本的に異なっている。マチスにとって,「matiereはどうでもよい(9)」のであって,「色彩の量がその質にほかならない(10)」。図に従属的であった輪郭線が,池彩画では,形態よりはむしろ色彩に従属的となり,ドリヴァルも指摘するよう,「油彩画において,輪郭線は下絵におけるほど決定的な役第3に,ドリヴァルも指摘するよう(6),下絵において見られたモデリング,ヴォリュりaplatsによって描き,すべての平らな色面の調和によってタブローの質を求めよう第4に,色彩が輪郭の機能を変えている事(口絵4• 5),下絵において,形態や構colorfieldによる各造形的プロック相互間の色価を高める役割りを担っている。つまり図6Passion 53 油彩-71 -

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