鹿島美術研究 年報第5号
110/290

(9) ホイスラーの基礎資料に関する調査研究研究者:東海女子大学文学部助教授中山研究報告:でホイスラー研究の基礎が,ようやく整ったわけである。ここでは,刊行されている文献資料はもちろんのこと,未刊行の資料を最大限に活用して,現在確認できるかぎりの油彩作品一点一点について,細かなデータが集成されているのは言うまでもない。この労作によって,ホイスラー研究が完了したのではなく,新たな出発点が用意されたと言うべきで,特に書簡などの公刊されていない基礎資料の調査研究の必要性が,却って一層確認されたと言うべきであろう。画家ホイスラーに関する基礎資料は,イギリスやアメリカの各地に保存されている。そのうち特に纏まったものとしては,ワシントンのペネル・コレクションとグラスゴー大学のものが知られている。ワシントンのものは,ペネル夫妻(ジョセフ1857■1926, エリザベス)が,1885年から約50年の間に収集したものである。ペネルは,これらの収集資料に基づいてホイスラー研究の基本文献とされる『ホイスラー伝The Life of ル書簡あるいは,タイプされた書簡の写しをはじめ,ホイスラーの母親の日記や書簡,ホイスラーと美術評論家ラスキンとの間で争われた訴訟の際の記録,作品の写真資料,それにペネルによって纏められた膨大な量の1847年から1937年にわたるホイスラーに関する新聞記事切り抜きなどの収集で,“ホイスラリアーナ”と称されている。またワシントンには,ホイスラー晩年の重要なパトロン,フリアー(1856■1919)のコレクションがある。現在スミソニアン・インスティテュートに属するフリアー・ギャラリーにホイスラーの代表的作品『ピーコック・ルーム』をはじめとした作品と共に,1880年から1904年までの書簡など296点が,保存されている。その他に,アメリカにはホイスラー初期のパトロン,リューカス(1824■1909)のコレクションがある。これは,1862年から1886年の書簡資料で,現在バルティモア美術館に寄託されている。初期からのホイスラーの芸術を知る上では重要なものであるが,その一部は『アート・ブュレティンArt Bulletin』誌(XLIX,1957)に掲載されたことがある。さて,アメリカ人ホイスラーが,1855年パリにやってきて以後,故国に一度も帰る1980年,待望久しかったホイスラーの油絵のカタログ・レゾネが刊行された。これJames McN eill Whistler』(1908年)を執筆したのであった。ホイスラーのオリジナ功-86 -

元のページ  ../index.html#110

このブックを見る