的註釈あるいは書物の美を形成する装飾的ー要素にとどまり,単なる文学史や版画・印刷史の対象以上に出ることはないだろう。挿絵の機能の分析こそ確かに最も重要な急務であると言わざるを得ないが,その前の基礎作業として,挿絵本の物としての側面や挿絵の装飾的側面,そしてそれらの機能との関わりを考察することなしに十全な挿絵本の理解が得られないことも忘れてはなるまい。以上の研究は,いずれも以って資とすべきところ多いのではあるが,およそー長一短で,挿絵本というものに対する総体的な視点を欠いているように思われる。われわれは教育的効果という甚び狭陰な要請にとらわれず,また「画家と本」といった限られた挿絵本だけに創造性を認めるような知的偏狭さを避けながら,より綜合的な挿絵研究とその方法を確立していかねばならないのである。ここでは,方法に関する確定的なモデルを提示し得ないが,中間報告としてその提要を略述するにとどめる。I.作者の領域挿絵本自体の内容・機能の分析に先立って,挿絵本が生み出されるまでの過程を検討し,文学史,印刷,版画史,挿絵史上の動向に照らしながら,その成立を規定する諸要素について考察を加える。つまり,いかなる経過である作家の作品に対して挿絵画家が選ばれ,実際両者のいかなる共同作業によって挿絵本が制作されたか。またその際,出版形式,版型,装訂,挿絵数等の決定を含めて出版社はどの程度その作業に関与したのかが,ここで糾明されねばならない。II.作品の領域製本,装訂デザイン等挿絵本の外観に関わる問題に触れた後,挿絵本の構造つまり挿絵とテクストの関係を知覚,意味の二つのレベルから考察する。1)ひとまづ挿絵がいかなる意味上のコンテクストで挿入されているかを考慮せず,挿絵の書物の中での位置,状態を明らかにする。ここで特に検討を要するのは,全頁に対する挿絵の数量や,版型,活字,行数(行間)等のタイポグラフィカルな側面と挿絵との版面構成上の関係,挿絵の技法上・様式上の特性など挿絵本の視覚的特性である。しているのか,また挿絵はテクストのいかなる瞬間を選んで描写しているのか,など2)挿絵とテクストが相応し,あるいは差異を生じながら,いかなる対応関係を示-92 -
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