” -1767)であろう。探元の様式(薩摩の風土的特質を合わせ持った様式)とその作品挿絵=テクスト相互の指示・強調関係の分析から挿絵本の構造を明らかにする。その際,キャプションや挿絵中の文字など,挿絵=テクストの相互作用に微妙に関わってくる要素にも注意が払われねばならない。III.読者の領域挿絵を見ながらテクストを読むという行為を通して読者がいかなる体験を享受することになるかを,挿絵の視覚的イメージとテクストの文学的イメージの相互作用の過程を分析することによって解明する。ここでは詳述を避けるか,その際「読者」の概念をいかなるレベルに想定するかが非常にむずかしい問題となろう。もとより挿絵とテクストは,読者の経験・能力に応じて無限の可能性に開かれているとはいうものの,IIの2)で明らかになった枠組がある程度限定的に作用することは言うまでもない。読者はそうした枠組に沿いながら,あるいはそこから逸脱しながら,挿絵=テクスト間をフィードバックし,視覚的イメージと文学的イメージの対位法的な競合・相関のうちに読者体験を形成することになる。ここでは,こうした読者の受容の様態を明らかにすることによって,挿絵本の機能を分析する。以上のような手続きを経て初めて,イメージ=テクストの複合メディアによる挿絵本独自の世界と解明する糸口が見えてくるように思われる。猶,現在挿絵本研究の方法をさらに厳正なものに仕上げた上で,ディケンズ(フィズ画)の『マーティン・チャズルウィットの生涯と冒険』(1844)をケース・スタディとして論文を準備中である。(l0 尚古集成館における島津家資料の調査研究(その2)一江戸時代鹿児島の絵画資料を中心にして(共同研究)〔継続〕研究代表者:鹿児島大学教育学部助教授研究者:尚古集成館学芸員研究報告:薩摩藩は,慶長7年(1602)に成立し,これ以降,明治維新まで幕藩体制の中に組み込まれる。初代藩主,島津家久(1576-1638)は,幕府に倣って御用絵師を採用する。それ以後,もっとも重要と思われる人物は,狩野探信守政の門人,木村探元(1679永田雄次郎田村省―松尾千歳-93 -
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