鹿島美術研究 年報第5号
162/290

2.距離融合型。物語の要求する場所以外に実在する建築が描かれる。この時代にポ能性も高い。というのも,いわゆる国際ゴシック様式を生み出したこの時期には,伊仏間の交流が再び活発になり,とりわけランプール兄弟は,様々な面でイタリアからの影聾を受けているからである。他方,贅を尽くした居城やなじみ深い建物の姿を『時の中に描くことにより恒久化することは,美術愛好家,保護者であったベリー公の願って止まぬところであったに違いない。ランブール兄弟の描く建築ポートレートは,高々10年ほど先行するにすぎないブシコーの画家のものに比較すると,驚くほど迫真的である。ランプール兄弟の作品において初めて,建築の細密なディテールが緻密に描き込まれるようになったために,こうした写実性が感じられるのである。ただし,彼らの描く建築ポートレートは,引き伸ばされた細長いプロポーションを持ち,現実にはない装飾が加えられた,いわば理想化されたものにすぎない。(第3章)建築ポートレートの成立が絵画の物語叙述にもたらした意味建築ポートレートは,特定の場所,および場合によっては特定の時間を,描かれた場面に,視覚的に与える機能を持つ。従って,建築ポートレートが成立することにより,絵画の物語叙述にも,少なからぬ変化がもたらされた,と考えられる。ここでは,この時代の絵画における物語(絵画主題)と建築ホ°ートレートの関係を3つに分類して考察する。1.時間融合型。物語が設定する場所に実在する建築が描かれる。この場合,物語の時が無視され,過去の物語と当代の建築ポートレートが組み合わせられることがしばしば起こる。ピュラーであった宗教主題の多くは,本来パレスチナを舞台とするものであるが,身近な建築がこれらの場面に描きこまれる場合が少なくない。ーを追体験させる,あるいは物語を自分の日常体験に照らし合わせながら理解させるためのきっかけを与えることになる。他方,物語の与える時所と建築ポートレートが与えるそれとが異なるために,物語が表すストーリーとは別の新しい文脈が成立する場合がある。こうした絵画にも,建築ポートレートが描かれることにより,ある文脈が成立することがある。また,風俗画のように,それだけでは特定の時所と結び付かない絵画に関1, 2の両方の場合,建築ポートレートは,鑑賞者を画面に引き込みそのストーリ3.名所絵型。絵画の中には,例えば肖像画のように,物語を含まないものもある。-138-

元のページ  ../index.html#162

このブックを見る