鹿島美術研究 年報第5号
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(5)楯および方立は連続しており,斜め格子の帯の間に四弁花を中心とした文様を表す。格(6)柱は上中下に帯があり,これに挟まれる区画に宝相華文様を大きく描く。これらをつや墨で囲み,さらに金・白・丹線で囲む。回りに片方で五個の花弁を付けるが,この花弁は内側より朱・白・丹線・群青・白群・白群具・白の順に彩り,丹の地に接する。この先方に群青緩糊による湧雲形を付けるが,これは中央部の宝相華と共通している。唐草状の茎葉は緑青標欄でさらに群青綜躙の葉もつける。丹地と帯文様との間には猪目形を中央に描く朱の斎雲網帯を置く。この条雲襴は丹地に接する方から順次,墨・朱墨・朱・朱具・白で最後に朱線でくくっている。帯文様は中心帯を白地とし,上下に墨線・群青・白群・白群具(二段)・白・墨・群青・緑青・白緑・白の順序で彩色している。内法長押下面は車輪状の丸文を並列している。両端は柱によって切られるが,各面五個の車輪文が三分の一程を楯に隠されながらも描かれている。車輪状というのは,ローゼット形を後世の「雪輪」形で囲んだかたちを指すが,朱地の円中にこれを表している。ローゼットの中心は緑青で円周に朱を置く。花弁の内区は群青,外区は群青。これらの周囲を群青および緑青で縁どり,雪輪状に群青でくくるが,その内側を朱の緩糊で埋める。これら車輪状形の外側にできた区画は花菱の半形とし,緑青と群青でかたどり,余白を丹としている。このような下面は朱の彩色がことに鮮やかに目を射るが,いわゆる雪輪形は大陸美術との関連で注目される。子帯は緑青地で,その中央に菱形の裁金による四ツ目を連続させている。菱形に区画された地は丹で,四弁花は群青,花弁の中央に朱を打ち,緑青の茎でつなぐ。見込み部は群青緞糊による帯文様と宝相華文様からなる。宝相華文様部の地は丹で,花は群青の斎雲糊,葉茎は緑青で表す。帯部はそれぞれ三段に分かれ,上下段は緑青地に裁金の四ツ目文を連ねている。上下段はいづれも青地に金箔を押した細い帯に挟まれる。中段は弁柄地に緑青で線描的な唐草を表している。この唐草文も大陸美術との関連で注意される。柱の上の区画は白地で,ー株の宝相華を描いている。宝相華は朱線で鈎勒し,茎を緑青とする。葉と花の部分に群青を填彩し,中央花の左右の葉や先端部のつぼみには朱を内区に入れて画面を引き立たせている。茎や葉は細く蔓状に曲線を描き,アール・ヌーヴォーの意匠を想起させるほどに斬新な印象を与える。下方の区画は五個の宝相華からなる文様で,中央に一花をおき,上下の左右に配置され170-

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