(7)扉八面には梵天・帝釈王・龍王・閻魔天および四比丘がそれぞれ描かれている。いずれ(2)天井長押における牡丹唐草文様は,同時代あるいはこれに先行する類似例をみいだしが(3)内法長押の見付けにおける宝相華は,平安時代までの宝相華文様からかなり逸脱し,抽(4)内法長押下面の雪輪文様は,よく似た形のものが東京芸術大学保管吉祥天厨子絵帝釈天た各花は方立に蹴られて半形となっている。地は鮮やかな朱で,茎は緑青だが,片方の側を白くして地との対照をすっきりとさせている。宝相華の花弁は群青で内区に朱を用いる。葉茎はやはり細く,紐状に絡みあっている。も白下地に彩画され,卓抜した画技をそこに見ることができる。これら扉絵については,さらに詳細な観察が必要であり,今時点では記述を控える。以上,海住山寺五重塔内陣荘厳画のとくに装飾文様について,観察したところを述べた。次に,上のような荘厳画について問題となる点を挙げ,現時点での解釈を与えておくこととする。(1)亀の尾や天井廻縁を帯文様と宝相華文様とすることは伝統的といえ,平等院鳳凰堂に典型的な先例を見いだすが,より近い例としては浄瑠璃寺三重塔(十二世紀)などが挙げられよう。た<,特筆される。牡丹の花弁がやや細く茎や葉も紐状に細くなっており,余白部分が多いので,爽快で淡泊な印象を与える。こういった文様は大陸では宋代美術の特徴と思われる。参考例としては,中国河南省少林寺初祖庵の櫓石彫の牡丹文様(1125年)が挙げられよう。また南宋画である建長寺蔵仏三尊図中仏台座に,相近い形状の蓮華唐草が描かれている。なお,花弁に二箇所切れ込みを入れる牡丹については,輩県永裕陵(1085)望柱に見いだされる。また中国の磁器において,本牡丹唐草に近似する唐草文様が北宋期の青白磁に初めて現れ,元・明の青花に大幅に取り入れられることとなるようにみえることも,注目されよう。以上に挙げた参考例は,柱の宝相華文様についてもまた,近似例として挙げられるであろう。象化しているといえよう。特に,中央部の宝相華は花というよりも,類似した曲線で構成された抽象的な文様といったほうがよいとも思われる。ここで多用されている三つの山をもつ雲形のモチーフは,宋代美術に頻繁に登場する文様単位といってよい。例としては,中国大足県北山石窟持玉印観音宝冠(北宋)や満願寺蔵諸尊集会図(南宋)仏台座などに見られる。-171 -
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