鹿島美術研究 年報第5号
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_彼らが得た影響,与えた影響ー一—1848年に結成された英国の芸術家グループ「ラファエル前派」をめぐる従来の研究親密であったことは,よく知られている。そうした同氏のもとで,長年にわたり大切に保存されていた資料のなかには,戦前からの自由美術家協会の機関紙や印刷物をはじめ,NOVAやフォルム展の展覧会出品目録,そして「デ・ザミ」,「動向」などといった当時の小グループの小冊子などが多く含まれていた。これらをみると,たとえば,昭和15(1940)年7月自由美術家協会が,当局の干渉をおそれて美術創作家協会へと改称した際の会員への通知書なども散見され,戦時下の美術団体が次第に逼塞せざるをえなかった状況の一端をうかがうことができる。そして,戦後の資料のなかには,昭和21(1946)年に松本竣介自身が美術家組合の創設を提唱し,各画家に配布したという一文「全日本美術家に諮る」も含まれており,また機関紙「自由美術」には,あらたに参加した新人画会の画家たちの活発な発言が見いだされ興味深い。このように,同氏のこれらの資料は,新人画会に限らず,いわばひろく昭和戦前期美術の貴重な資料といえる。尚,この調査の成果の一部は,昨年11月に開催された同氏の回顧展「難波田龍起展」(東京国立近代美術館主催)として反映され,また資料の一部は,昨年12月に同氏より東京国立近代美術館に寄贈され保管されることになった。現在,これらの整理をすすめており,目録の作成をめざしている。ところで,難波田氏からの資料を調査するにつれ,同時代に関する美術史の記述からは汲みだせない事実がすくなからずあることがわかり,また,たとえば面談しえた画家のひとり麻生三郎氏からは,太平洋画会研究所時代交友のあった安孫子真人という画家の存在を強く喚起されたように,新人画会を中心にすえ,そこから徐々にではあるが,探索と検証の網をひろげていくことで,昭和の美術史のなかで,ともすれば埋没しそうな重要な一面を明らかにすることができるのだろう。(30) 美術史的文脈におけるロセッティとラファエル前派再考研究者:独協大学非常勤講師高橋裕子では,彼らが自ら名乗った名称が文字通りにうけとめられ,ラファエロ以前のイタリア初期ルネサンスの芸術が彼らの運動を鼓舞したものと無条件に信じられて,過去の芸術との具体的な関係についての考察が欠落しがちだった。この問題は自明と見倣して検討を省略し,主題の文学的内容や現実のモデルとの関係に関心を集中させるのが,-175-

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