トラドウィックら)の作品は,構図,人物タイプ,色調,細部のモティーフ(古代風浮彫等)など種々の点でボッティチェリ,マンテーニャ,クリヴェリらに触発されている。1855■65年にナショナル・ギャラリーの初代館長を務めたイーストレイクがイタリア初期ルネサンス絵画を積極的に購入するという状況の変化があり,「ラファエル前派」の第二世代はその名称により忠実になることができた。しかし,彼らが模倣の対象として選択した画家たちは,初期ルネサンス美術の中でも素朴さ,初々しさ,明澄さ,肯定的な意味での「プリミティヴ」な特質とは最も掛け離れた芸術的個性の持ち主であり,第二次ラファエル前派の芸術は,様式(復古趣味,理想性,装飾性)・主題(現実を離れ,神話や過去の文学の世界に取材)とも初期のラファエル前派とは明らかに異なるものとなり,耽美的傾向をあらわにした。以上,今年度は,ラファエル前派と過去の芸術の関係を,運動自体および状況の変化を考慮しつつ追究した。各人の個性の相違に応じて影聾は様々なかたちをとったが,その詳細は本報告では省略してある。引き続き,ラファエル前派と同時代の他の芸術家,芸術傾向(英国ではレイトンに代表されるヴィクトリア朝古典主義とホイッスラーの唯美主義,大陸ではモロー,ベルギー象徴派,クリムト)の相互関係について考察中であるが,この部分のまとめは次年度に譲らざるを得ない。(31) 欧米所在の明末・清初の版画研究研究者:実践女子大学文学部講師小林宏光研究報欧米所在の明末清初の版画で調査し得た作品の中から明末の三挿図本,すなわち万暦13年(1004)刊『程氏墨苑』(ロンドン・ディビット財団所蔵本),天啓7年(1627)刊『十竹斎書画譜』(ロンドン・大英図書館東洋部所蔵本)及び崇禎13年(1640)刊『閃斉傲本西廂記』(ケルン市立東亜美術館所蔵本)の版画を比較して二つの問題点について考察した。第一の問題は,上記各挿図本の版下絵と版下絵作家を通じての版画と肉筆画の関係である。三本三様にかかる関係が異なる形でみられる。第二の問題は,明末版画の一大成果で中国版画史上最も重要な技術革新といってもよい多色刷りの発達状況が三本の間にうかがわれることである。(1) 版画と肉筆画の関係-179-
元のページ ../index.html#203