鹿島美術研究 年報第5号
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2.クロードの鏡上述のようなクロードの作品の解釈は,広大な自然を縮小し,色彩を制御し,多様な詳細を犠牲にして,絵の主要な構成のみを強調する「クロード鏡」の特性と合致する。上記のキットスン教授の助言を得て,筆者は,イギリスで多数の通称「クロード・グラス」に触れる機会を得た。クロード自身が「クロード鏡」を使用したという証拠はない。だが,本研究では,それもイギリスのクロード「イズム」とでも呼ぶべきものの所産として研究の対象としている。「クロード鏡」には,今回の調査で確認した限りでも,大き〈分類しても5種類あり,その人気のほどが推し量られる。それらは僅かに凸面形状の黒色の鏡であり,従って銀鏡と異なり,そこに映る広大な風景は,細部の識別が困難となり,主要な構成や光と陰影との関係が強調された像となる(図4)。以上に述べた,アーラム版,カルラッチオーロ版,そして「クロード鏡」などは,クロードの絵画作品にとっては周辺的問題でしかない。だが,例えば,クロードのターナーヘの影磐とその両者に対するラスキンの批評の歴史的重要性を考えると,むしろ近代美術史全体にとっては,それらは周辺的問題以上の意味を有していると思われる。イギリスとイタリアの,素描を版画化したものであるにもかかわらず,一部には正確な複製もして扱われていた懸念のある,ふたつの版のLiberV eritatis,クロードの素描とタブローの偽作,そして各種の「クロード鏡」など,クロードの作品に加え,その周辺の資料に触れ得たことは,クロードを巡る造形文化の研究だけでな〈,作品自体の研究にも有効に作用するものと考めている。結果として,いささか意外なことだが,これまで調べ得た限りでは,クロードは明治の日本で初めて多〈の頁数を費して,その作品と作風を図版と活字で紹介されたヨーロッバの画家である。明治9年,それはまさに日本の洋画の黎明期であり,「ランドスケープ」の図4「クロード鏡Jの一例(ケース付)-192-

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