鹿島美術研究 年報第5号
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(36) 美術研究における画像処理コンピュータの応用研究(共同研究)研究代表者:国際日本文化研究センター助教授早川聞多研究報告:コンピュータを美術研究に利用しようとする動きがここ2,3年の間に大きくなってきているが,その利用方法には大きく分けて二つの方向がある。一つはコンピュータの情報処理能力を利用して,大量の美術資料を入力整理し,それらを多角的に縦横に検索し,新たな傾向や分類分けを見出そうとする方向である。コンピュータ利用というと先ずこの方向が考えられが,われわれが興味を持ったのは,もう一つのコンピュータ利用の方向である。それは一点一点の美術画像に対して,コンピュータの持っている画像処理機能を用い,画像分析を試みようとする方向である。われわれがこの方面に興味をもった理由は,美術作品の画像を分析する場合,これまでそのほとんどは各研究者の想像力で行なわれ,その過程は各々の研究者の頭の中に留まらざるを得ないのが実状であったからである。というのも,美術の作品分析が対象とするものが,他の分野のものと大きくその性質を異にしていたからである。即ち,美術研究,特に作品研究が扱うものはかけがえのない文化財であり,いくら学問のためとはいえ,そのもの自体に手を加えたり,解体するような方法をとることは決して許されないからであった。仮に作品の一部を変更して比較資料を作ろうとする場合,複製を用いてやることも考えられるが,複製作成はたいへん高価につくので,なかなか思うに任せなかったのである。対象作品が一つしかないということと,作品に対して非接触かつ非破壊が絶対条件であるため,美術研究の作品研究は前記の通りの制限のうちに進めざるを得なかったのである。我々はこうした条件のもとに置かれている美術画像分析の研究に,コンピュータの画像処理の方法を用いることによって,画像を自由に変更して他人に分かり易く説明できる道を開きたいと考えたのである。研究報告:[コンピュータ画像の基本的原理]画像処理コンピュータの画面は小さな点の集合であり,この点を画素という。我々が使用した機種では一画面は縦横512X512の画素で構成されている。この数が多ければ多いほど精緻な画像が表示できるわけである。これらの点の位置はすべてコンピュータで捉えられており,それぞれの画素の位置を表わす数値A.画像は点の集まりで表わされる-204-

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