鹿島美術研究 年報第5号
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(イ)「海外派遣」(1) 琳派を中心とした在米日本絵画の調査研究研究者:京都大学大学院文学研究科博士課程安田篤生研究報告:今回の渡米調査では,既に日本に紹介されている主要作品についての調査,写真撮影に主眼を置く事とし,調査箇所も琳派を中心に日本美術を多く収蔵する美術館が集中するアメリカ東海岸に限った。私は1987年9月20日から10月11日にかけて渡米し,以下の日程で調査及び写真撮影を行った。まず,9月20日から25日にかけてボストンに滞在し,ボストン美術館に行くと共に,従来西洋部門と共にフォッグ美術館に入っていた東洋部門が移転したハーバード大学サックラー美術館で,同館に寄託されているパワーズ・コレクションを調査した。次いで9月26日から10月4日までワシントンに滞在し,フリーア・ギャラリーの収蔵庫で調査を行うと共に,展示場で公開されていた宗達筆「松島図屏風」「雲龍図屏風」を始めとする琳派の諸作品について調査した。最後に10月5日から10日までニューヨークに滞在し,メトロポリタン美術館で調査を行うと共に,同市内のバーク・コレクションについても琳派とその関連作品について調査を行う事ができた。最初に記したように,今回の調査は,著名な美術館に収蔵され,何らかの形では既に図版で紹介されている作品を中心としたので,以下,いたずらに調査作品を羅列する事は避け,メトロポリタン美術館で調査する事ができた尾形光琳関係の作品を取り上げて見解を示す事で調査研究の報告としたい。「燕子花図屏風」(六曲一双根津美術館蔵)と「紅白梅図屏風」(二曲一双MOA 美術館蔵)を残す事で著名な尾形光琳(1658-1716)については,子孫に伝えられた文書類(いわゆる小西家文書現在そのほとんどが文化庁と大阪市美術館に所蔵されている)等により,当時の画家としては例外的にその伝記が比較的明らかである。従来の光琳画に対する研究も,主要作品の落款の書体を小西家文書や作品相互間で比較したり作品に押捺されている印章の号や画風を相互比較する事により,光琳の伝歴中いかなる時期にどのような作品が描かれたのかを推定し,光琳の画風展開を探ろうとする試みが中心となっている。(山根有三「光琳の画風展開について」『琳派絵画全集光琳派ー』他)以下に述べようとする見解もそうした従来の研究結果を根底からくつ-225-

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