2.扉口構成の問題点と彫刻様式(図2,3,参照)載石組積法のまだ十分発達していない11世紀初期の教会本体に対し,西正面に増設されたポーチは美しい戟石技術とそれにともなう彫刻装飾をそなえたロマネスク期の貴重な作例である。今回の調査からポーチの一階には第三クリュニー大修道院の影響が建築上ほとんど見られないことがわかった。すなわち第三クリュニーの建築を特色づける尖頭アーチ(pointedarch),溝飾りのあるつけ柱(flutedcolumn),明確な凹凸曲線のある柱脚(scotiaand torus base),アストラガルを柱身と同じ石材の頭部に彫る柱頭と柱身の接合法など,ペルシーには導入されていないからである。ペルシーのポーチは,整った寸法の戟石をうすいモルタルを使って化粧張りする石積法をとっている。この方法は建築細部の装飾(例えば柱脚・迫持飾りの装飾文)とともに,ブルゴーニュ地方に伝わるもう一つの伝統であるブリヨネ地域の初期ロマネクス建築から出発している。ペルシーのポーチに最も近い例としては,ヴェズレーの側廊があげられる。ポーチの立面は一階と階上間との二層から成る。ただし扉口前の梁間は一階から二階へ吹き抜けにし,その梁間を凹字形に囲むように階上間を設けている。したがって階上間からも扉口の彫刻を見ることができる。一階,階上間を吹き抜けの空間により連続させたこの立面設計は,前時期のサン・ブノワ・シュール・ロワールおよびトゥルニュ(Tornus)の二層式玄関間の空間から大きな進歩を示している。ペルシーのポーチが建設された時点では,シャルリウ(Charlieu),ヴェズレー(Vezelay),第三クリュニーの玄関間がいまだ着工されていなかったことは留意されるべきであろう。ペルシーのポーチに第三クリュニーの影聾があらわれるのは,今回の調査で初めて見ることができた屋根裏の一部(本来は鐘塔の南外壁?)と鐘塔においてである。ここでは,溝飾りつきつけ柱,葉飾柱頭の様式とその接合法など,クリュニー様式が支配的になる。第三クリューニーの硬直化,地方化した姿と云ってもよい。ポーチが「神の家」である教会の聖なる空間と外界の俗なる空間との間に文字通り位置し,半ば開かれ,半ば閉じられた中間の空間であるなら,ポーチから身廊へと導<扉口は聖界へのより明確な境界線である。ペルシーの扉口彫刻の図像プログラムは半円型壁面に「荘厳のキリスト」,その下の楯(lintel)と左右の延長部に「受難伝からの諸場面」,楯を支える軒持送り(corbel)に向って右は「悪魔退治をする天使」,左は「悪魔退治をした天使」,側柱(jamb)の柱頭に右は「三頭鳥とファウニ」左は「隠者-231-
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