鹿島美術研究 年報第5号
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Stimmung"等…cf.H. W.. van Os. P. 137-142)しかし,ここにおいても,これらフランドルの風景表現)の受容を想定する必要があるものと思われる。ただし,イタリアにおけるパノラミックな展望風景の出現に関して,北方作品との関連がよりしばしば言及される他の早期作例(D.ヴェネチアーノ,F.アンジェリコ,サン・クレメンテ『傑刑』等)については別機に論じたいと考えている。他方文献については,幾つかの貴重な新視点を加えることが出来た。まずパドヴァ,ヴェネツィア,フェルラーラ三都市の1450年前後の交流史,特にスクァルチオーネ研究史に関して現時点での成果と限界を確認することが出来た。さらに特筆すべき点としては,写本挿絵に関する作品及び文献資料を新たに加えることが出来たことである。元来北方においても風景描写の発展はフランコ・フラマンの専ら写本挿絵領域で達成されてきたものであったが,特に北イタリア写本に関し,日本での資料入手が困難であった事もあって,本研究の照準には入っていなかった。今回の調査によって以下のように新たに,ヴェネト,フェルラーラ,シェナ写本の概観を得て,特にフェルラー背景が華々しく展開している事実を確認した。しかしこれらはいずれも1450年以降の制作であり,従って50年代既に達成を見ていたピエロなど大作家の板絵及び壁画の成果の反映と見倣す説が有力である。(cf.Salmi. 1943)ところがルネサンス的革新的要素を持つとされるパドヴァ30年代の4つの写本(cf.G. M. Canova, 1982)のうち,特にLezionariodel vescovo Pietro Donato del 1436 (New York ; Pierport Morgan 訪問の機会を持ったパドヴァ司教ピエトロ,ドナイトに関連するこの写本は,30年代の早期において北方作品との驚くべき類似性を示しており,(特にF.llv, 14, 24, 26 V) ドナトを介した,北方絵画との新たな交流接点の発見を期待し得るものである。我々ば帰国後新たにニューヨーク,モーガン図書館にカラースライドを申請入手し,現在その分折研究を続行中である。また,シェナ写本群についても,1450年以降一連の“風景をともなう謙譲の聖母”という興味深い現象が出現し,新しい風景表現の可能性を示している。(牧草地のある自然的環境,雰囲気的なニュアンス,“romantischeの前段階である,ヤーコポ・ベルリーニ及びジョヴァンニ・ディ・パオロの同主題作例(ルーヴル,ボストン/シエナ)からの直接的連続的発展とは考え難い,風景の質的なラBorsod'Esteの聖書1455-61年,パドヴァ1470年代写本,ParisBib. de !'Arsenal Ms 940, Albi bib. Rochegude Ms 4などに空気遠近法をともなうパノラミックな風景Library, ms. 180)は注目に値する。年記が明らかである上,法王使節として度々北方-240-

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