鹿島美術研究 年報第5号
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御伽草子の物語に新たな一つを加えるものとして注目される。16世紀を下らない時期の作品。乾燥と膠焼けのため亀裂,剥落が一部に生じており,早急の修理を必要とする。(図3)虫の歌合せは,木下長鳴子の虫歌合せに絵を加えたもの。寛永17年の住吉如慶筆本が肉筆絵巻として最も古く,享保4年本,藪本家A本B本が他に知られている(森暢氏「虫歌合絵」一同氏『歌仙絵・百人一首絵』所収,参照)。ローマ東洋美本は,薮本江戸狩野の筆法の特徴を含む。享保ころか。以上,御伽草子系の絵巻に珍しいものを見付けたのは,予期しない収穫であった。(B) ベネチア東洋美術館(MUSEOD'ARTE ORIENT ALE DI VENEZIA) 当館はConteBardi (Parmaのブルボン家の皇太子)が1888年に日本に滞在の折り集めた3万点といわれるコレクションのうち1万5千点を蔵する。イタリアでは最大の日本美術コレクションである。長い間閉鎖状態であったが,最近国立美術館となり,目下蔵品の整理に追われている。このコレクションの実際の収集はシーボルトの孫にあたるHeinrickvon Sieboltによってなされたといわれ,たしかに民俗学的興味を反映した面があるが,合戦絵や武具に対する異常なほどの関心は,ConteBardiの趣味にもとづくものだろう。幕末明治をさかのぼるものは少なく,美術品のコレクションとしては質的に第一級のものとはいい難いが,甲胄,刀剣,槍,鍔,根付,能装束,蒔絵,屏風絵,軸画,錦絵とあらゆる分野にわたる膨大な収集品のなかには名品の隠れていることも予想され,総合的な調査を必要とする。現在日本人専門家による調査報告がなされているのは,刀剣と槍の分野のみである。以下,私の調査した絵画作品約100点のなかから抜粋する。<屏風絵〉半)源氏雲を施した精緻な画風源平合戦図屏風はこのほか展示品あわせて10点以上ある。おおむね江戸後期から幕末・明治にかけてのものだが,江戸中期にさかのほ‘ると思われるものも一点展示して家B本と図様が全く同じであるが,詞書は別手になる。保存よく美しい上手の画面,1,源平合戦図6曲1双15110/15111紙本金地着色* * 7'虫の歌合せ紙本着色一巻江戸時代江戸後期(18世紀後-243-

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