鹿島美術研究 年報第5号
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(ウ)国際会議出席(1) 第2回カナダ国際美術史会議ルネッサンス部会(ローマ)派遣研究者:福井大学教育学部教授若山映子6月6日出大阪を発ち翌朝ローマに着く。当日は日曜日であったので聖ピエトロ大聖堂のミサをもってイタリアでの15日を開始。8日(月)午前中ヴァティカーノ博物館システィーナ礼拝堂にゆき,カナダ国際美術史会議参加のためにアメリカからこられたバーンスタイン教授に会う。同日午後6時半より中央修復研究所となっている聖ミケール旧修道院内会議場で国際会議のオープニング・セッション。会議の研究発表は9日朝9時半に始まり,13日のクロージング・セッションまで80名に及ぶ参加者の発表が行われた。それと同時に,10日からは修復中の古代遺跡の見学も18名を限度とする2グループに許可され,10日にはセプティミウス・セヴェールスの凱旋門とコンスタンティヌス帝凱旋門,11日にはトライアヌス帝円柱,12日にはマルクス,アウレリウス帝円柱とハドリアヌス帝神殿,13日にはプロンズ製のマルクス,アウレリウス帝騎馬像を見学し,修復担当者の説明を聴き,かつ質疑応答の機会を持つことができた。今回の会議推進者のひとりであるポルツァー教授が修復のセッションに非常に力を入れられたお蔭であるが,修復進行中のモニュメントを足場から全面にわたって観察できたこと,千数百年の歴史を,常に人々と共に生き続けてきた大理石彫刻やブロンズ像(地下あるいは海中にあって近年発掘されたものとは違い,風雪に耐え,人々の造形意識に問いかけ,あるいは既に何回もの修復の対象となってきたものである)に対して,我々がいかなる意識をもって接し,あるいはこれを後代に伝えるべく手を加えるべきか等を,修復師達と語りあえたことは,何にも増して今回の会議参加の収穫であったと言えよう。大理石の凱旋門や円柱では,南に向かった面は気温の差(日中と夜間)が破損の大きな要因となっていること,雨水が流れ落ちるという現象も傷みを誘発すること,排気ガス等が表面を黒いかさぶたのように被っているが,それ自身も害はあるものの被膜のような形で内部の形態の溶解を押さえている部分もあることなど,地上から見上げただけでは解らぬ点も見ることができた。トライアヌス帝円柱については,ルイ14世及びナポレオン3世が全体の石脅どりをさせているので,これらと比較することで,17世紀以降の変化を知ることができると-247-

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