* 8月の東京における平均湿度は77%,温度は27℃である。要旨日本にある油彩画に発生する結晶についてー一第一報非破壊X線回折法による検査―小谷野匡子(絵画保存研究所)門倉武夫(東京国立文化財研究所)最近,日本にある油彩画には,その表面や内部に結晶様の物質が発生することがあるという事実が,発見されている。我々は,4枚の油彩画から採取した結晶について,顕微鏡下での化学分析,蛍光X線および粉末X線回折分析,さらに特別に設計した非破壊X線回折装置による分析を試みた。その結果,この結晶はある種の硫酸亜鉛水和物である事が分かり,これはグランド層や絵具層中の酸化亜鉛が変化した物であると推定された。序論日本に油彩画の技法が紹介されたのは,およそ100年前のことである。以後,油彩画は画家や収集家の間で人気を高め,その数を増やしてきた。しかし今までは,油彩画は日本の多湿な気候から保護されることなく飾られ,収納されていた。最近,かなり多くの油彩画に特異な結晶が発生していることが分かり,修復家の間で話題になっている。以前,日本画にも結晶の発生が見つかったことがあったが,分析は行なわれていない。これらの結晶は絵を見苦しくするだけでなく,その生成の過程でしばしば絵具層を破壊する。我々がこの結晶発生の原因とメカニズムの究明に力を入れている理由はここにある。日本の政府は,文化財からの試料の採取を禁じでおり,ほとんどの美術館がこの規則に従っている。この研究の場合には,調査する絵画から顔料,グランドおよび結晶の微量試料の採取を行なうにあたって,各所蔵家から特別の許可を得た。しかし,1984年に東京国立文化財研究所が非破壊X線回折装置を開発した際,この結晶の問題はこの迅速で正確な装置の性能を試してみるのに役立った。-256-
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