A.広岡作の「コーヒー沸かしのある静物」(1933年作,72.4X60. 7cm)は1983年から84年にかけて調査されたが,画面全体が細かい結晶のかさぶた状のもので裂われてい光X線分析および粉末X線回折によって分析された。赤色は硫化水銀と酸化鉛,茶色で,おそらく硫酸亜鉛であろう。た。紫外線検査灯で見ると,結晶はニス引き画面の様に黄色の蛍光を発している。グランドは,顕微鏡下の化学テストで酸化亜鉛であることが分かった。顔料の試料は米国ロサンゼルス・カウンティ美術館のJamesDruzik氏に送られ,蛍は鉄,亜鉛,鉛を含んでいた。結晶は硫酸亜鉛であると同定された。小林徳三郎作「レモンのある静物」(1930年頃作,45.5X53cm)は,1986年の春に調査された。画面の果物はほとんど器の上に,細かい結晶の層が見られた。更に,キャンバスの裏面に,丁度水滴を散らしたような班点状の跡が見られた。ロンドンのナショナルギャラリーのGarryThomson氏によって,結晶ば粉末X線回折およびレーザー顕微鏡で分析され,硫酸亜鉛七水和物と同定された(ZnS04• 7 H心)。(図1,2)この絵は更に東京国立文化財研究所において,非破壊X線回折装置で分析された。グランドは,塩基性炭酸鉛であることが分かった。オレンジの赤色は朱即ち硫化水銀(HgS)であった。青色はアルミン酸コバルトであり,白色は酸化亜鉛であった。結晶は硫酸亜鉛アンモニウム水和物((NH山Zn(SO山•6H20)であると同定された。配位水分子の数は,湿度によって6又は7になる。この結果は,通常の粉末X線回折によっても証明された。アンモニアの存在を証明するために結品をイオンクロマトグラフィにかけたところ,アンモニウムイオンが検出された。非破壊X線回折分析この装置は,寺院で天井画や壁画の素材を分析するため,1984年に東京国立文化財研究所の特注で作られた。これはコントロールパネルから離して持ち歩きできる装置で,ゴニオメーターをあらゆる方向に向けることのできる腕を持っている。この装置は作品の表面から離れたままで直接情報を読み取り,20分で分析結果を出すことができるという利点を持っている。しかしながら,二つの欠点もある。まず,装置がオープンなため,光線の強さを通常の粉末X線回折の場合の三分の一程度にしかすることがで-258_
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