鹿島美術研究 年報第5号
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きず,5 mm以上の大きな試料を必要とする。表面が不均ーな場合には,更に感度が減少する。絵画の分析では,必要な面積を露出させるに足る0.7X 1.0cmの矩形の穴をあけた鉛遮蔽板を,絵の上に置いてもよい。第二の欠点は,ゴニオメーターが作品に接触しないため入射角は15(2 0=30)以上でなければならず,従ってX線回折の全領域は測定できないということである。上記の入射角の測定にはクロムのターゲットい。このような場合は,回折パターンを既知の化合物のものあるいはJCPDS標準カードと比較しなければならない。当然のことながら,この種の分析は表面下の浅い部分の情報に限られており,また有機化合物については何も分からない。光線は最大直径lmなので,操作中は装置の周辺から離れるか,鉛遮蔽板を用いなければならない。ここに述べた四つの場合の結晶は,種々の手段で分析した結果,硫酸亜鉛水和物それもおそらくアンモニウムイオンを含む物であるという点で一致した。これはグランドまたは絵具中に存在する硫酸イオンから,高湿度下アンモニア存在下で生じたと思われる。これらの反応成分は,空気中の汚染物質や絵のサイズ材またはメディウムの分解物から供給されたのであろう。日本の高温多湿の気候,とくに夏の気候がこの結晶の成長を促進させる重要な因子であると考えられる。絵の中の亜鉛源,アンモニア源,およびその他の関係物質の反応のメカニズムについては,更に研究する必要がある。非破壊X線回折分析法は,この種の問題を研究する手段として,極めて有用である。(Ka 1 = 2, 2896A)が用いられるので,d=4.423A以上の結晶面間隔は測定できな結論-259-

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